キスはボルドーに染めて
「一緒に来て欲しいところがある」

 蒼生はそれだけを言うと、ゆっくりとアクセルを踏む。

 陽菜美はまだ戸惑った顔つきのまま、小さくうなずいた。


 座り心地の良いシートに包まれながら、夜の大通りを軽快に走りぬける。

 30分程して到着したのは、様々な有名企業が名を連ねる超高層複合ビルだった。

「すごいビル……」

 陽菜美は完全にお(のぼ)りさん状態になりながら、蒼生についてエレベーターに乗り込む。

 エレベーターの案内板には上層階に“OTOWine(オトワイン)株式会社”の文字が見えた。


「ほ、本当に、私にここで働けと!?」

 陽菜美が慌てて見上げると、蒼生はにんまりとほほ笑んでいる。

 するとポンという落ち着いた音とともに、エレベーターの扉が開いた。

 蒼生について静かなフロアをすすむ。

 OTOWine株式会社と書かれたガラス戸をぬけ、開放的なオープンテラス風の打ち合わせスペースの横を通りすぎた。

 どうも終業後だからか、人はまばらだ。
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