キスはボルドーに染めて
 でもそんな姿も、蒼生がすると様になっているから不思議だ。

 しばらくして、蒼生はコーヒーカップを二つ手にやってくると、一つを陽菜美の前にそっと置いた。

「いただきます」

 陽菜美は小さく声を出すと、ブラックのコーヒーをひと口、口に含む。

 深煎りのコーヒーのアロマが、陽菜美の()きっ(ぱら)に沁みわたった。


「酒石のクレームの報告書を読んだ時、オペレーターの機転の利いた対応に興味を持った。そうしたら、ボルドーで出会ったはちゃめちゃな女性が、報告書で見た名前と同じだったから驚いたよ」

 蒼生は思い出し笑いをするように、くくくっと肩を揺らす。

「そんな偶然ってあるんですか!?」

 陽菜美はあんぐりと口を開けると、ソファにのけ反った。

「あるんだろうな」

 蒼生はそう言うと、あははと声を出して笑っている。


「俺も今日、フロアで君の姿を見るまでは半信半疑だったんだ。でも、やっぱり君だったな」

 にっこりとほほ笑む蒼生に、陽菜美は頬をぽっと染める。


 ――そんな風に笑いかけられると、勘違いしちゃいそう……。
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