キスはボルドーに染めて
 すると蒼生は、もじもじとする陽菜美を、指先でちょいちょいと手招きした。

 不思議そうに顔を寄せた陽菜美に、蒼生はさらにずいっと身を乗り出す。


「はっきり言おう。俺はこの会社で冷遇されている。いや、厄介者扱いされていると言った方が良いだろうな」

 蒼生は陽菜美の耳元でそう言うと、楽しそうに笑っている。

「厄介者!?」

 陽菜美はつい大きな声を出すと、再び狭い室内を見渡しながら、フロアですれ違った社員たちの顔を思い出した。

 確かに社員たちは会釈をしてたが、その顔つきは親しみを感じるものではなかった様な気もする。


「まぁ、俺も、あんまり仕事してこなかったからなぁ」

 蒼生はあっけらかんと言いながら大きく伸びをすると、ソファの背もたれにドスンと背中をつく。

「何ですか、それ!?」

 陽菜美は再び叫び声を上げると、蒼生の顔をまじまじと眺めた。

 自分は会社の厄介者だと話しながらも、蒼生はなんだか楽しそうに見える。


 ――ますます蒼生さんのことが、わからなくなってきた。


 頭にはてなマークを浮かべる陽菜美にくすりと笑いながら、蒼生は優雅にコーヒーカップを口元に運んだ。
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