キスはボルドーに染めて
 二人だけの室内はシーンとして、空調機の音だけが聞こえている。

 しばらくして、蒼生はコーヒーカップを机に置くと、ゆっくりと陽菜美に目を向けた。


「どうも痺れを切らした上層部が、自分たちを納得させられる新規の企画を出さなければ、俺をクビにすると言いだしているらしい」

「クビ!?」

 陽菜美は三度目の叫び声を上げる。

「そうだ、クビだ」

 蒼生は自分の首にちょんちょんと手を当てると、わざとらしく神妙な顔つきをした。


 経営者の親族なのに、クビになるとは余程のことがない限りあり得ないだろう。


 ――本当なの……!?


 陽菜美は話の真偽がわからずに、戸惑ったように目を動かした。

 すると蒼生が再び顔を寄せる。

「だから君に、俺の仕事を手伝って欲しいって訳だ。なんせ、俺のクビがかかってるからな」

 そう言いながらも、あははと笑う蒼生に、陽菜美は慌てて机に両手をつくと大きく身を乗り出した。

「ちょ、ちょっと待ってください。私、ただのワインが好きな人ってだけですよ? 蒼生さんのクビがかかっている、しかも新規の企画だなんて……」

「良いんだよ。君のはちゃめちゃで、無計画で無謀な性格もプラスすれば、上層部をうならせる企画が出せそうだ」

「はい!?」
< 41 / 230 >

この作品をシェア

pagetop