キスはボルドーに染めて
厄払(やくばら)いだ」

「はい!?」

 蒼生はパッと陽菜美の鼻先から手を離すと、珍しく眉を下げて陽菜美の顔を覗き込んだ。


「嫌な思いをさせて悪かったな」

「え?」

「俺は陽菜美のことを、スケジュール管理ぐらいしかできない人間だとは思ってない」

「……蒼生さん」

 蒼生の真っすぐな瞳に見つめられ、陽菜美は心の奥が熱く動くのを感じる。

 蒼生こそ嫌な思いをしただろうに、陽菜美のことを気づかってくれる思いやりが、音羽蒼生という人の本質な気がした。


 ――私、蒼生さんに、どんどん惹かれてく……。


 するとそんな陽菜美の様子に気がついたのか、蒼生が急にパッと表情を変えた。


「どうも俺は、陽菜美の顔を見ると、元気が出るみたいなんだよな」

「え? それってどういう……」

 戸惑う陽菜美に、蒼生が悪戯っぽくにんまりと口元を引き上げる。

「あの酷い泣き顔が、目に浮かぶからだな」

「も、もう! 真面目にやってくださいってば!」

 陽菜美はつままれてジンジンする鼻をこすりながら、わざとらしくぷっと頬を膨らませた。
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