キスはボルドーに染めて
「いてて……」

 耳元で小さく蒼生の声が漏れ聞こえる。


 ――大変、早く起き上がらないと……。


 そう気持ちだけは焦るのに、どこかでまだ蒼生に包まれていたいと思ってしまう自分がいる。

 頬に触れる蒼生のシャツからは、ほのかにムスクの香りが漂い、陽菜美の心臓はドキンドキンと激しく動き出した。


「大丈夫か?」

 蒼生の低い声が身体を伝って聞こえてくる。

「ご、ごめんなさい。すぐにどきますから……」

 陽菜美は慌てて声を出すと、顔を上げようとした。

 でも髪の毛が何かに引っかかっていて動けない。


 ――ど、どうしよう。


 引っかかった毛先を探すと、どうもそれは蒼生のシャツのボタンに絡んでいるようだった。


「ちょっと待って、俺が外すから」

 蒼生が陽菜美の手を止め、ゆっくりと絡んだ毛に指先をのばした。

 陽菜美は完全に蒼生の上に抱きついた状態のまま、じっと息を殺すように待つしかない。


 ――恥ずかしい……。


 こんなに密着していたら、心臓のドキドキが蒼生にそのまま伝わってしまいそうだ。
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