キスはボルドーに染めて
 頬に触れる蒼生の胸元からは、優しい温もりが伝わってくる。

 思わず目を細めかけた陽菜美は、そっと蒼生の胸元に手を当てて小さく瞳を開く。


 ――蒼生さんも……ドキドキしてる?


 身体に伝わるその振動に陽菜美がはっとした時、するりと絡んでいた髪の毛が外れた。


「取れたぞ」

「あ、ありがとうございます」

 パッと顔を上げた陽菜美の目と鼻の先に、蒼生の少し頬を染めた顔が映る。

 その顔を見た瞬間、陽菜美はまるで心を掴まれたように動けなくなった。


 ――あぁ、だめ。吸い込まれそうだ……。


 息をのむように二人はお互いを見つめ合う。

「……陽菜美」

 蒼生の低い声が零れるように耳元に届いた時、バタンと急に大きな音を立てて扉が開いた。


「いやぁ、スマホ忘れちゃって!」

 ノックもせずに、勢いよく部屋に飛び込んできたのは杉橋だ。

 杉橋は脇目も振らずにずかずかと部屋を横切ると、テーブルに置きっぱなしになっていた自分のスマートフォンに手をのばす。

 そしてふと、ソファで向かい合う陽菜美と蒼生を見て、はてと大きく首を傾げた。
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