キスはボルドーに染めて
 でも気がつけば、仕事のパートナーとして、陽菜美とともに過ごす時間が心地良くなっていた。

 そして今まで何の感情もなく過ごしていた無機質な時間が、急に色づいたように生き生きと動き出したのだ。


「プレゼンなんて恰好だけ。美智世社長の思い通り、クビになる気でいたのにな……」

 蒼生はふうと息をつくと、頭をヘッドレストにトンとあずける。

「今ではこの立場を手放すのが、惜しくなるなんて……」

 自嘲するようにふふっと肩を揺らしながら、蒼生は再び陽菜美の真っ赤な顔を思い出した。


「……陽菜美は、どう思ってるんだ?」

 あの時、陽菜美は目をきつく閉じながらも『まだ勤務中です』と叫んでいた。

「つまり……勤務中じゃなければ良いってことか?」

 ふとやましい考えが頭をよぎり、蒼生は慌てて首を大きく振る。


 ――俺は、何を考えてるんだ……。


 蒼生は大きく息を吐くと、気持ちを切り替えるように車のエンジンをかけた。

 そろそろ本気で新規企画をまとめなければ、プレゼン自体がポシャってしまう。

 それでは元も子もないだろう。
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