キスはボルドーに染めて
「いや、おかしくはないよ。なぜそう思ったんだ?」

 蒼生の整った顔がさらに覗き込み、陽菜美はどぎまぎとしながら口を開いた。

「企画案を探していた時、私の20歳の誕生日のことを思い出したんです……」

「20歳の誕生日?」

 陽菜美は蒼生にうなずくと、もう真っ暗になっている窓の外を見つめる。


「前にボルドーで蒼生さんに会った時、あのシャトーに特別な思い入れがあるって、話したのを覚えてますか?」

「あぁ、確かそう言ってたな」

「あれ、父との思い出のことなんです」

「父親との……?」

 陽菜美の声に、蒼生は小さく目を開いた。


「私、母を早くに亡くしていて、父が男手ひとつで育ててくれたんですけど……」

 陽菜美は昔の思い出を手繰り寄せるように、ゆっくりと言葉をつなぐ。

「父はイベントごとに(うと)いし、忙しい人だったので、誕生日もクリスマスもなくて。でもなぜか20歳の誕生日の時に、私が生まれた年のワインをプレゼントしてくれたんです」
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