もう一人の私に出会った夏
「五十嵐純太。お姉ちゃんは?」

「私は、千早よ。」

「名字は?」

「ないの。名前だけ。」

「名前だけ?変なの。」

「そうね。」

千早は、にっこりと笑った。

「どこから来たの?」

「向かいの山よ。」

「あそこの山?」

純太は、遠くの山を指さした。

「うん。」

「ふうん。あそこの山って、そんなに近いの?」

小さい純太でも、容易に来る事はできないと分かる程だった。

「歩くと、少し遠いかな?」

「歩いて来たの?」

「うん。こっちに、用事があったから。」

「そうなんだ~。」

そんな会話をしているうちに、大分日が暮れてしまった。

「早くお家に帰った方がいいわ、純太君。」

「うん。」

純太は家の方向を向くと、ふと止まった。

「お姉ちゃんは?」

「えっ?」

「お姉ちゃんは帰らないの?」

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