もう一人の私に出会った夏
「お兄ちゃんのバカ!」

そう言って千歳は、家の中へ走って行った。

「何なんだよ、あいつ!」

幸太が千歳の荷物を拾った。

「幸太、おまえが悪いぞ。」

父が幸太の頭を軽く叩いた。

「俺が?」

「中学生の千歳にあれはないって。なあ、ちい。」


家の鍵を開けに行った母が、帰ってきた。

「そうね。」

「ちぇ、梓紗《アズサ》はそんな事言っても、平気なのにな。」

幸太は自分と、千歳の分の荷物を持って、家の中に入った。

「お兄ちゃん、梓紗って誰?」

純太が縁側から、家に入る。

「梓紗って俺の彼女。」

幸太が自慢そうに言った。

「おお~、いつの間に。」

父は嬉しそうだ。


「同級生か?」

「そ。同じクラス。」

「案外尻に敷かれてたりしてね。」

母が家の襖を、開けてまわった。

< 7 / 30 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop