もう一人の私に出会った夏
「言えてる、言えてる。」

「なんだよ、二人して~」

幸太は近くにいる純太を捕まえた。

「さあ、おばあちゃんにご挨拶よ。」

母の一声で、みんなで一番奥の部屋に向かった。


「あら、千歳は?」

「どこに行った?千歳!」

父が千歳を呼んだ。

千歳からの返事がない。

父と母は、顔を見合わせた。


「宗ちゃん…」

母は心配そうに、父の名前を呼んだ。

「大丈夫だよ。二階にいるんじゃないか。」

父は母の肩に触れると、廊下に出て二階への階段を上がった。

「千歳~」

名前を呼ぶと、千歳は二階の窓から外を眺めていた。

「探したぞ、千歳。」

父は千歳の隣に立った。

「おばあちゃんに挨拶しないと……」

「もうした。」

「もう?」

「家に入って真っ先に。」

千歳は表情を変えずに言った。

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