御曹司様はご乱心
第十話 二郎物語
◇◇◇前回の続き、スーパー三日月の店長室◇◇◇
岩下「も……申し訳ありません。二郎さま」
◯岩下と呼ばれた40代くらいの男が、
顔色を変えて平謝りに高校生の二郎に謝っている。
二郎「ねえ、僕がこのスーパーを買い取ったときに君に言った言葉を覚えているよね?」
◯二郎、物憂げに机の上で頬杖をついている。
二郎「僕はね、金も出すけど口も出す。そういうタイプだ。
ときには思い切った人事移動や改革っていうのも必要だと思うし、
企業を率いるということは、つまりそういうことだろう?」
◯二郎、にっこりと岩下に微笑みかける。
氷の微笑。
◯岩下、二郎にビビって生唾を飲む。
◯岩下の回想
『スーパー三日月』はもともと自分の父がはじめた個人経営の小さなスーパーだった。
うちも目の前の『スーパー望月』のように大手スーパーの進出によって経営が傾き
資金繰りがうまくいかず、真剣に閉店を考えていたときだった。
ある日、店にこの少年が顧問弁護士を伴って訪れたのである。
二郎「おじさん、このスーパー、僕が買ってあげるよ」
◯二郎、そう言って岩下の頬を札束でなで上げる。
回想終わり。現在に戻る。
二郎「この場所に店を開店させて、もう何ヶ月になる?
僕は一ヶ月でケリをつけろと言ったよね。
そのための資金援助は惜しまないと」
◯二郎、岩下に決算書を放って寄こす。
岩下「も……申し訳ございません。二郎さま」
◯岩下、ひたすら二郎に謝る。
岩下(くそっ!)
岩下モノローグ
個人経営の『スーパー望月』が正直ここまで持ちこたえるとは、予想できなかった。
◯二郎、岩下を無表情で見つめて、窓のほうに歩いていく。
ブラインドを上げて、道を挟んで対峙する『スーパー望月』に視線を移す。
『お惣菜』と書かれたのぼりがはためいて、ひとだかりができている。
その真中で、必死にメガホンをとって叫んでいる、さくらに目をとめる。
二郎「あいつ……目障りだ」
◇◇◇視点、惣菜を売りまくっているさくらへ移動◇◇◇
さくら「みんな、ありがとう。
お惣菜の売れ行き、お客様の評判、ともに上々よ。
さあ、あと一時間、ラストスパート行くよ!!!」
おばちゃんたち「あいよっ!」
さくらモノローグ
みんなの心がひとつになる。
『スーパー望月』はまだ終わっていない。
終わらせちゃいけないんだ。
◯さくら、額の鉢巻をを蒔き直す。
二郎「なにそれ、ダッサ」
◯二郎、さくらを鼻で嗤う。
◯さくら、二郎を見て何か引っかかる。
さくらモノローグ
あれ? あたしこの子のこと、どっかで見たことある。
二郎「何、人のこと間抜け面して見つめてんのさ、
ボーッとしてないでさっさと接客したら?」
さくら「も……申し訳ありません。ご注文は?」
◯さくら、営業スマイルを取り繕う。
二郎「コロッケちょうだい。無料なんでしょ?」
さくらモノローグ
なんか意外な注文だな。
人のことダサいとか言いながら、めっちゃ無表情を装ってるけど、
でもなんかこの少年、微妙にソワソワしてないか?
二郎「コロッケ! コロッケちょうだいっ!!!」
◯二郎、苛立った様子。
さくら「も……申し訳ありません。はい、どうぞ」
◯さくら、揚げたてのコロッケを少年に渡す。
二郎「ふ〜ん、貧乏くさっ」
◯小さな紙の袋に淹れたコロッケを受け取りながら、二郎が毒づく。
パートのおばちゃん「ああん?」
◯さくらの脇を固めるパートのおばちゃんたちの目が据わる。
二郎、ギクッとした表情でその場を離れる。
◯二郎、その場から少し離れた、自販機の横に置かれているベンチで小袋を開けて、コロッケに齧りつく。
二郎「熱っ!」
◯二郎、小さく叫んだ後、目頭を抑えて上を向く。
さくら(えっ? そんなに熱かったの?)
◯さくら、自販機でお茶を買って少年に渡す。
さくら「あのっ、大丈夫ですか?
コロッケそんなに熱かったかな? これどうぞ」
◯二郎、お茶を受取、無言で飲み干す。
二郎「ぷはー」
◯二郎、拳で口を拭う。
二郎「決めたよ。僕はここでバイトするから」
◯二郎、ものすごい険悪な表情でさくらを睨みつける。
さくらモノローグ
ひっ! 瞳孔が開いている。
さくら(あれ? やっぱりあたし、この感覚を知っている)
さくらモノローグ
しかしそれが何なのかは、
その時のあたしにはまだわからなかった。
◇◇◇さくらのバイト先、店のドアが開いてウインドウチャイムが店内に響く◇◇◇
総一郎「も〜ち〜づ〜き〜さ〜く〜ら〜」
◯総一郎、怒りの表情。
さくら「ひっ!」
◯さくら、条件反射で悲鳴を上げてしまう。
さくら(あれ?)
◯さくら、考え込む。
チーフ「ほら、さくらちゃん、お客様の注文とってきな」
◯チーフ、さくらと総一郎を交互に見比べて、ニヤニヤしている。
総一郎「ったく、お前は学習能力がないのか!
昼休みに送った俺のLINEをまた既読無視しやがって……」
◯総一郎、眉間にシワを寄せている。
さくら(あっ、ヤバい! バタバタしていてすっかり忘れてた)
さくら「おっ……お客様、ご注文は?」
さくらモノローグ
あたしは鳥羽さんのお小言を鍛え上げたアルカイックスマイルで躱す。
総一郎「ホットコーヒー」
◯総一郎、憎たらしそうに鼻の頭にシワをよせる。
さくら(あれ? この表情……やっぱり何かがひっかかる)
厨房担当「さくらちゃん、ホットコーヒーあがったよ!」
◯さくら、トレーにホットコーヒーをのせて総一郎のもとに歩いていく。
〇総一郎のさら髪とダークグレイの瞳が、二郎に重なる。
さくら「あーーーー!!!」
〇さくら、トレーに乗せていたホットコーヒーを、総一郎の股間にこぼす。
総一郎「ほわっちゃーーーー!!!」
〇総一郎の悲鳴が、店内に響き渡る。
岩下「も……申し訳ありません。二郎さま」
◯岩下と呼ばれた40代くらいの男が、
顔色を変えて平謝りに高校生の二郎に謝っている。
二郎「ねえ、僕がこのスーパーを買い取ったときに君に言った言葉を覚えているよね?」
◯二郎、物憂げに机の上で頬杖をついている。
二郎「僕はね、金も出すけど口も出す。そういうタイプだ。
ときには思い切った人事移動や改革っていうのも必要だと思うし、
企業を率いるということは、つまりそういうことだろう?」
◯二郎、にっこりと岩下に微笑みかける。
氷の微笑。
◯岩下、二郎にビビって生唾を飲む。
◯岩下の回想
『スーパー三日月』はもともと自分の父がはじめた個人経営の小さなスーパーだった。
うちも目の前の『スーパー望月』のように大手スーパーの進出によって経営が傾き
資金繰りがうまくいかず、真剣に閉店を考えていたときだった。
ある日、店にこの少年が顧問弁護士を伴って訪れたのである。
二郎「おじさん、このスーパー、僕が買ってあげるよ」
◯二郎、そう言って岩下の頬を札束でなで上げる。
回想終わり。現在に戻る。
二郎「この場所に店を開店させて、もう何ヶ月になる?
僕は一ヶ月でケリをつけろと言ったよね。
そのための資金援助は惜しまないと」
◯二郎、岩下に決算書を放って寄こす。
岩下「も……申し訳ございません。二郎さま」
◯岩下、ひたすら二郎に謝る。
岩下(くそっ!)
岩下モノローグ
個人経営の『スーパー望月』が正直ここまで持ちこたえるとは、予想できなかった。
◯二郎、岩下を無表情で見つめて、窓のほうに歩いていく。
ブラインドを上げて、道を挟んで対峙する『スーパー望月』に視線を移す。
『お惣菜』と書かれたのぼりがはためいて、ひとだかりができている。
その真中で、必死にメガホンをとって叫んでいる、さくらに目をとめる。
二郎「あいつ……目障りだ」
◇◇◇視点、惣菜を売りまくっているさくらへ移動◇◇◇
さくら「みんな、ありがとう。
お惣菜の売れ行き、お客様の評判、ともに上々よ。
さあ、あと一時間、ラストスパート行くよ!!!」
おばちゃんたち「あいよっ!」
さくらモノローグ
みんなの心がひとつになる。
『スーパー望月』はまだ終わっていない。
終わらせちゃいけないんだ。
◯さくら、額の鉢巻をを蒔き直す。
二郎「なにそれ、ダッサ」
◯二郎、さくらを鼻で嗤う。
◯さくら、二郎を見て何か引っかかる。
さくらモノローグ
あれ? あたしこの子のこと、どっかで見たことある。
二郎「何、人のこと間抜け面して見つめてんのさ、
ボーッとしてないでさっさと接客したら?」
さくら「も……申し訳ありません。ご注文は?」
◯さくら、営業スマイルを取り繕う。
二郎「コロッケちょうだい。無料なんでしょ?」
さくらモノローグ
なんか意外な注文だな。
人のことダサいとか言いながら、めっちゃ無表情を装ってるけど、
でもなんかこの少年、微妙にソワソワしてないか?
二郎「コロッケ! コロッケちょうだいっ!!!」
◯二郎、苛立った様子。
さくら「も……申し訳ありません。はい、どうぞ」
◯さくら、揚げたてのコロッケを少年に渡す。
二郎「ふ〜ん、貧乏くさっ」
◯小さな紙の袋に淹れたコロッケを受け取りながら、二郎が毒づく。
パートのおばちゃん「ああん?」
◯さくらの脇を固めるパートのおばちゃんたちの目が据わる。
二郎、ギクッとした表情でその場を離れる。
◯二郎、その場から少し離れた、自販機の横に置かれているベンチで小袋を開けて、コロッケに齧りつく。
二郎「熱っ!」
◯二郎、小さく叫んだ後、目頭を抑えて上を向く。
さくら(えっ? そんなに熱かったの?)
◯さくら、自販機でお茶を買って少年に渡す。
さくら「あのっ、大丈夫ですか?
コロッケそんなに熱かったかな? これどうぞ」
◯二郎、お茶を受取、無言で飲み干す。
二郎「ぷはー」
◯二郎、拳で口を拭う。
二郎「決めたよ。僕はここでバイトするから」
◯二郎、ものすごい険悪な表情でさくらを睨みつける。
さくらモノローグ
ひっ! 瞳孔が開いている。
さくら(あれ? やっぱりあたし、この感覚を知っている)
さくらモノローグ
しかしそれが何なのかは、
その時のあたしにはまだわからなかった。
◇◇◇さくらのバイト先、店のドアが開いてウインドウチャイムが店内に響く◇◇◇
総一郎「も〜ち〜づ〜き〜さ〜く〜ら〜」
◯総一郎、怒りの表情。
さくら「ひっ!」
◯さくら、条件反射で悲鳴を上げてしまう。
さくら(あれ?)
◯さくら、考え込む。
チーフ「ほら、さくらちゃん、お客様の注文とってきな」
◯チーフ、さくらと総一郎を交互に見比べて、ニヤニヤしている。
総一郎「ったく、お前は学習能力がないのか!
昼休みに送った俺のLINEをまた既読無視しやがって……」
◯総一郎、眉間にシワを寄せている。
さくら(あっ、ヤバい! バタバタしていてすっかり忘れてた)
さくら「おっ……お客様、ご注文は?」
さくらモノローグ
あたしは鳥羽さんのお小言を鍛え上げたアルカイックスマイルで躱す。
総一郎「ホットコーヒー」
◯総一郎、憎たらしそうに鼻の頭にシワをよせる。
さくら(あれ? この表情……やっぱり何かがひっかかる)
厨房担当「さくらちゃん、ホットコーヒーあがったよ!」
◯さくら、トレーにホットコーヒーをのせて総一郎のもとに歩いていく。
〇総一郎のさら髪とダークグレイの瞳が、二郎に重なる。
さくら「あーーーー!!!」
〇さくら、トレーに乗せていたホットコーヒーを、総一郎の股間にこぼす。
総一郎「ほわっちゃーーーー!!!」
〇総一郎の悲鳴が、店内に響き渡る。