御曹司様はご乱心

第九話 惣菜合戦

◇◇◇前回と同じ、空き教室にて、前話の続き◇◇◇

総一郎「おまっ! ちょっ……望月さくら!!! 
    今更ショック受けたような顔してんじゃねぇぞ!」

さくら「そんなこと言われましても……」

◯さくら、がっくりと肩を落とす。

総一郎「何? その顔」

◯総一郎、半眼になる。

総一郎「んだよ。ったく」

◯総一郎、ため息を吐く。

総一郎「迷惑だった?」

◯総一郎、さきほどとは打って変わって、驚くほど静か。

さくらモノローグ

あたしは鳥羽さんの問いに答えられない。
そう言い切れない自分が、確かに自分の中に存在するのだ。

あたしは鳥羽さんに婚約者がいることが、凄くショックだった。

それは自分でも説明がつかないほどの化学変化で、
多分あたしは鳥羽さんのことが……。

さくら「そうだと言えない自分に、今すごく戸惑ってる」

◯さくら、下を向く。

総一郎「んだよ、そりゃ。煮え切らない」

◯総一郎、吐き捨てるように言って、そっぽを向く。

◯さくら、カッとなる。

さくら「だって仕方ないでしょ!
    相手は日本屈指の財閥の御曹司で、帝王って呼ばれている人で、
    じゃあ、あたしは?
    借金まみれの明日にも倒産しそうな下町のスーパーの娘だよ?
    釣り合うわけがないじゃない。
    あたしをこれ以上みじめにさせないで!!!」

◯さくら、涙を流す。

さくらモノローグ

ああ、そうだ。
あたしは今とても悲しいのだ。

世界一好きな人に
そんな悲しい言葉を投げかけなくてはならない
不甲斐ない自分が
悲しくて仕方ないのだ。

◯総一郎、さくらを抱きしめる。

総一郎「なあ、望月さくら、
    俺はそんなこと、お前に一言もきいてねぇよ? 興味もねぇし」

さくらモノローグ

鳥羽さんはいつだって、乱暴な言葉とは裏腹に、
まるで壊れ物を扱うかのように
大切そうに、あたしに触れる。

総一郎「なあ、望月さくら。俺のこと……好き?」

さくらモノローグ

鳥羽さんのかすかな香水の香りが鼻孔をついて
少し頭がぼんやりしていたのかな。

あたしは鳥羽さんの胸の中で小さく頷いた。

◇◇◇さくら、大学が終わって、またひたすらに自転車を漕いでいる◇◇◇

さくら「ふんぬーーーー!!!」

◯さくらが向かった先は『スーパー望月』。
 スーパー望月の前には『お惣菜』と書かれたのぼりがはためいている。
 
 のぼりの前には『スーパー望月』のエプロンを着用したおばちゃんたちが
 気合も充分に鶴翼の陣形で臨む。


◯さくら、自転車を停めて、道を一本隔てた場所にあるライバル店『スーパー三日月』を
 メラメラと燃えたぎる闘魂を込めて睨みつける。

さくら「首を洗って待ってなさい『スーパー三日月』」

パートのおばちゃん「さくらちゃんっ! お帰り。待ってたよ!!!」

◯さくら、おばちゃんから鉢巻とハッピを受け取ってそれに腕を通す。

◯それを合図に、調理場から他のおばちゃんたちが出てきて、
 お惣菜を載せたワゴンを配置していく。

◯ワゴンには焼き鮭、肉じゃが、唐揚げ、オムライスなど、
 おばちゃんたちの得意料理がところ狭しと並んでいる。(←めっちゃおいしそう)

さくら「これが天下分け目の関ヶ原っ! 見てらっしゃい!」

◯さくら大きく息を吸い込んで売り込みをかける。

さくら「さあさあ、よってらっしゃい、見てらっしゃい。
    買ってくれたらなお嬉しい。
    『スーパー望月』のお惣菜のタイムセールの始まりだよ!」

◯声を張り上げるさくらのまわりに人だかりができる。

さくら(よし、つかみはOKだな)

◯さくらとおばちゃんたちは惣菜を売りまくる。

なじみのおばあちゃん「おや、さくらちゃん。
           大学はもう終わったのかい? 今日は随分早いんだね」

さくら「ええ、今日は四限目が休講だったのよ。
    それよりおばあさん、こちらの新メニューの『手作りコロッケ』なんだけど、
    良かったらどうぞ」

◯さくらフライヤーの前に陣取って、おばあさんに揚げたてのコロッケを手渡す。

さくら「試食品なんで、今日は無料なんです」


なじみのおばあちゃん「おやまあ、それはありがとう」

◯おばあさん、なんどか息を吹きかけて、揚げたてのコロッケにかじりつく。

なじみのおばあちゃん「美味しい」

◯おばあさんの顔がほころぶ。

さくら(そうであろう、そうであろう)

さくらモノローグ

なんといってもこのレシピは、母の直伝なのである。
料理上手の母のレシピのなかでも、ダントツで美味しいのが
このコロッケなのだ。

あたしはずっとこのレシピを商品化したかったんだけど、
フライヤーが高くてなかなか実現できなかったんだよね。

だけど近所の商店街のお肉屋さんが閉店するらしくて、無料で譲ってもらったんだ。

買い物客「さくらちゃん。私にも!」

◯買い物客が我先にとフライヤーの前に押しかける。

◇◇◇そんなスーパー望月の様子を、道一本隔てたスーパー三日月の店長室のブラインドから
   少し冷めた眼差しで美少年が見つめている。
   薄茶のさら髪、有名私立高校の制服を着用し、店長室の安楽椅子に腰掛けている。

二郎「岩下、お前は日本有数の大手を自負する我がグループの名を貶めるつもりか?」
















< 9 / 11 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop