御曹司様はご乱心
第七話 婚約者
総一郎「おっ……おやすみ……なさい」
◯総一郎、そう言って顔を背けるが、横顔がめちゃくちゃ赤面している。
◯さくらモノローグ
鳥羽さんの唇の感触が、
その表情が……
頭にこびりついて、離れない。
◇◇◇さくらの部屋、ベッドの上に横たわるさくら◇◇◇
さくらモノローグ
その夜は死ぬほど疲れていたにも関わらず、
なかなか眠ることができなかった。
◯カーテンから光が差し込み、すずめが鳴いている。
さくらモノローグ
それでも朝はやってくるのだから仕方ない。
◇◇◇望月家が食卓を囲む風景◇◇◇
さくら「お母さん、おかわり」
さくら母「さ……さくら……おかわり何杯目?」
◯さくら母、さくらの食欲にビビり、ちょっと青くなっている。
さくらモノローグ
せめて食べなきゃやってられない。
問題は山積みで何一つ解決してはいないけど、
それでも人間、しっかり食べれて、便秘が解消したら、
それで案外八割くらいの問題は解決するんじゃないかなって
あたしは思っている。
さくら「お母さん、この煮物すごく美味しい」
◯さくら、豪快に盛られた野菜の煮物に箸をつけて驚く。
さくら母「ああ、それかい?
近所の農園で形が悪くて出荷できないクズ野菜を
分けてもらったんだ。
形が悪いってだけで、味は絶品だよ。
何より新鮮だし」
◯さくら母、からからと笑う。
さくらモノローグ
だけどこの母のすごいのは、お店の経営が傾いても
決して食卓を粗末にしないところだ。
本当の豊かさっていうのは、
食材にやたらとお金をかけることではなくて
愛情を伴ったこういう創意工夫から生まれるんじゃないかなってあたしは思う。
◇◇◇大学の構内で必死に自転車を漕ぐさくら◇◇◇
さくら「ふんぬーーーー!!!」
さくらモノローグ
今日も今日とてあたしはフルスロットルで自転車を漕ぐ。
交通費を節約できるし、とても素敵な有酸素運動だと思うわ。
わざわざお金を払ってジムに行く人の気が知れない。
まあ、軽くヤケクソが入っているのは認めるけどね。
◯駐輪場で自転車を停めるさくら。
一ノ瀬「おはよう、望月さん。今日は随分と早いんだな」
◯駐輪場を掃除する、イケメン男子に遭遇。
さくら「おはよう、一ノ瀬君」
◯にこやかに挨拶を交わす二人。
さくらモノローグ
一ノ瀬君はあたしと同じ食物化の学生なんだけど、
大学の入学前に両親を事故で亡くしちゃったんだ。
なんでも大学の理事長の温情で、
大学の営繕として住み込みで働くことを条件に、
大学の授業を受けることを許されているのだって。
あたしも大概の苦労人だと思っていたけど、
多分一ノ瀬君はあたしより、もっと厳しい状況にいる。
さくら「いつも駐輪場をきれいにしてくれてありがとう」
◯さくら、ぺこりと一ノ瀬に頭を下げる。
一ノ瀬「そんなっ! これは仕事なんだから当然だよ」
◯一ノ瀬、両手をブンブン振って謙遜している。
さくら「そんなことないよ。誰が見ていなくても、
いつだって一ノ瀬君は誠実に仕事に取り組んでいる。
あたしはそれをすごいなって思うの。
決して他の誰にでもできることじゃないわ」
◯さくら、そう言って微笑む。
一ノ瀬「望月さん、ありがとな」
◯一ノ瀬もさくらに笑いかける。
◯そこに大学の令嬢たちが登校してくる。
令嬢「あら、ごきげんよう。望月さん」
◯さくらと一ノ瀬を見比べて、馬鹿にしたようにクスクス笑い合う。
令嬢「望月さんと一ノ瀬じゃん。やだぁ、貧乏人同士。お似合い」
◯令嬢たち、笑い合う。
そこにけたたましい車のクラクションが鳴り響く。
◯駐輪場の真横に、ポルシェのケイマンが停車している。
禍々しいオーラを発して鬼のような形相をした総一郎がおりてくるが、
さくらは気づかない。
さくら「あのね、一ノ瀬君世の中には他人のことをとやかく言ってくる人もいるけど、
あんまり気にしないでね」
◯一ノ瀬は、さくらの言葉には答えず、寂しそうな笑みを浮かべる。
総一郎「俺は気にするねっ! 誰だよ、そいつ!」
◯総一郎が一ノ瀬を睨みつける。
音がする。
ドッドッドッドッドッドッ……。
ハーレーダビッドソンに跨った、ピンクの髪の美女が現れる。
ルイーズ「涼平♡」
◯ルイーズは一ノ瀬に向かって思いきいり手を振っている。
その後ろに護衛の黒塗りの高級車たちが追ってくる。
執事「姫様〜!!! 危ないっ! スピード落として」
◯ドカンという衝撃音
美女の乗ったハーレーダビッドソンがきれいにポルシェにおかましている。
ルイーズ「あら? あらあらあら?」
◯ルイーズは不思議そうに小首を傾げる。
そして視線を一ノ瀬に据えて
ルイーズ「涼平♡」
◯一ノ瀬に向かって走り寄り、抱きつく。
一ノ瀬「おっお嬢様っ!」
◯ルイーズに抱きつかれて真っ赤になる一ノ瀬。
総一郎「てんめぇ! このクソ女。
俺のポルシェに対する謝罪は無しかっ!」
執事「これはこれは、鳥羽総一郎様」
◯ルイーズの執事が総一郎に深々と頭を下げる。
執事「やや、これはまずいですぞ!
姫様、この使用人とは離れてっ!」
◯執事が一ノ瀬とルイーズを引き離そうとするが
ルイーズ「嫌よ!」
◯ルイーズは一ノ瀬から離れようとしない。
執事「姫様っ! こちらの鳥羽総一郎様は姫様の婚約者ではありませんかっ!
そのような方の前で、そのような振る舞いはおやめください」
◯執事の言葉にルイーズと総一郎が同時に顔を上げて
ルイーズ(総一郎)
「こんな男(女)なんて
こっちから願い下げですわ(だ)
正式に婚約破棄を申し出ます(る)」
◯同時に叫ぶ。
◯総一郎、そう言って顔を背けるが、横顔がめちゃくちゃ赤面している。
◯さくらモノローグ
鳥羽さんの唇の感触が、
その表情が……
頭にこびりついて、離れない。
◇◇◇さくらの部屋、ベッドの上に横たわるさくら◇◇◇
さくらモノローグ
その夜は死ぬほど疲れていたにも関わらず、
なかなか眠ることができなかった。
◯カーテンから光が差し込み、すずめが鳴いている。
さくらモノローグ
それでも朝はやってくるのだから仕方ない。
◇◇◇望月家が食卓を囲む風景◇◇◇
さくら「お母さん、おかわり」
さくら母「さ……さくら……おかわり何杯目?」
◯さくら母、さくらの食欲にビビり、ちょっと青くなっている。
さくらモノローグ
せめて食べなきゃやってられない。
問題は山積みで何一つ解決してはいないけど、
それでも人間、しっかり食べれて、便秘が解消したら、
それで案外八割くらいの問題は解決するんじゃないかなって
あたしは思っている。
さくら「お母さん、この煮物すごく美味しい」
◯さくら、豪快に盛られた野菜の煮物に箸をつけて驚く。
さくら母「ああ、それかい?
近所の農園で形が悪くて出荷できないクズ野菜を
分けてもらったんだ。
形が悪いってだけで、味は絶品だよ。
何より新鮮だし」
◯さくら母、からからと笑う。
さくらモノローグ
だけどこの母のすごいのは、お店の経営が傾いても
決して食卓を粗末にしないところだ。
本当の豊かさっていうのは、
食材にやたらとお金をかけることではなくて
愛情を伴ったこういう創意工夫から生まれるんじゃないかなってあたしは思う。
◇◇◇大学の構内で必死に自転車を漕ぐさくら◇◇◇
さくら「ふんぬーーーー!!!」
さくらモノローグ
今日も今日とてあたしはフルスロットルで自転車を漕ぐ。
交通費を節約できるし、とても素敵な有酸素運動だと思うわ。
わざわざお金を払ってジムに行く人の気が知れない。
まあ、軽くヤケクソが入っているのは認めるけどね。
◯駐輪場で自転車を停めるさくら。
一ノ瀬「おはよう、望月さん。今日は随分と早いんだな」
◯駐輪場を掃除する、イケメン男子に遭遇。
さくら「おはよう、一ノ瀬君」
◯にこやかに挨拶を交わす二人。
さくらモノローグ
一ノ瀬君はあたしと同じ食物化の学生なんだけど、
大学の入学前に両親を事故で亡くしちゃったんだ。
なんでも大学の理事長の温情で、
大学の営繕として住み込みで働くことを条件に、
大学の授業を受けることを許されているのだって。
あたしも大概の苦労人だと思っていたけど、
多分一ノ瀬君はあたしより、もっと厳しい状況にいる。
さくら「いつも駐輪場をきれいにしてくれてありがとう」
◯さくら、ぺこりと一ノ瀬に頭を下げる。
一ノ瀬「そんなっ! これは仕事なんだから当然だよ」
◯一ノ瀬、両手をブンブン振って謙遜している。
さくら「そんなことないよ。誰が見ていなくても、
いつだって一ノ瀬君は誠実に仕事に取り組んでいる。
あたしはそれをすごいなって思うの。
決して他の誰にでもできることじゃないわ」
◯さくら、そう言って微笑む。
一ノ瀬「望月さん、ありがとな」
◯一ノ瀬もさくらに笑いかける。
◯そこに大学の令嬢たちが登校してくる。
令嬢「あら、ごきげんよう。望月さん」
◯さくらと一ノ瀬を見比べて、馬鹿にしたようにクスクス笑い合う。
令嬢「望月さんと一ノ瀬じゃん。やだぁ、貧乏人同士。お似合い」
◯令嬢たち、笑い合う。
そこにけたたましい車のクラクションが鳴り響く。
◯駐輪場の真横に、ポルシェのケイマンが停車している。
禍々しいオーラを発して鬼のような形相をした総一郎がおりてくるが、
さくらは気づかない。
さくら「あのね、一ノ瀬君世の中には他人のことをとやかく言ってくる人もいるけど、
あんまり気にしないでね」
◯一ノ瀬は、さくらの言葉には答えず、寂しそうな笑みを浮かべる。
総一郎「俺は気にするねっ! 誰だよ、そいつ!」
◯総一郎が一ノ瀬を睨みつける。
音がする。
ドッドッドッドッドッドッ……。
ハーレーダビッドソンに跨った、ピンクの髪の美女が現れる。
ルイーズ「涼平♡」
◯ルイーズは一ノ瀬に向かって思いきいり手を振っている。
その後ろに護衛の黒塗りの高級車たちが追ってくる。
執事「姫様〜!!! 危ないっ! スピード落として」
◯ドカンという衝撃音
美女の乗ったハーレーダビッドソンがきれいにポルシェにおかましている。
ルイーズ「あら? あらあらあら?」
◯ルイーズは不思議そうに小首を傾げる。
そして視線を一ノ瀬に据えて
ルイーズ「涼平♡」
◯一ノ瀬に向かって走り寄り、抱きつく。
一ノ瀬「おっお嬢様っ!」
◯ルイーズに抱きつかれて真っ赤になる一ノ瀬。
総一郎「てんめぇ! このクソ女。
俺のポルシェに対する謝罪は無しかっ!」
執事「これはこれは、鳥羽総一郎様」
◯ルイーズの執事が総一郎に深々と頭を下げる。
執事「やや、これはまずいですぞ!
姫様、この使用人とは離れてっ!」
◯執事が一ノ瀬とルイーズを引き離そうとするが
ルイーズ「嫌よ!」
◯ルイーズは一ノ瀬から離れようとしない。
執事「姫様っ! こちらの鳥羽総一郎様は姫様の婚約者ではありませんかっ!
そのような方の前で、そのような振る舞いはおやめください」
◯執事の言葉にルイーズと総一郎が同時に顔を上げて
ルイーズ(総一郎)
「こんな男(女)なんて
こっちから願い下げですわ(だ)
正式に婚約破棄を申し出ます(る)」
◯同時に叫ぶ。