御曹司様はご乱心

第八話 ファースト・キス

さくらモノローグ

目の前に鳥羽さんの婚約者がいる。

しかもよりによって、この人だなんて。


◯さくら、天を仰ぐ。

さくらモノローグ

このピンクの髪の超美人さんは、なんとヨーロッパの公国の王女様で、
名前をルイーズ・エクレシアという。

大学ではとても有名で、みんなの羨望の的だ。

そんな人が婚約者だなんて、さすがは鳥羽さん、っていうか
嫉妬を覚えるよりも、なんかステージが違うなって思ってしまった。

ルイーズ「クソ女……ですって?」

◯ルイーズにっこりと総一郎に笑いかける。
 その笑顔に周囲の人々が引きつるが、総一郎は半眼でルイーズを睨みつけている。

ルイーズ「あら、あなた、わたくしにそんな口をきいて
     許されると思っていて?」

◯ルイーズ、手を腰に当てて、ぐっと胸を張る。
 超美人に加えて、ボンッキュッボンッの完璧なプロポーション。
 少し意地悪な笑みを浮かべて、一歩また一歩とジリジリと総一郎に歩み寄るが、
 総一郎は青い顔をしてその度に総一郎は一歩また一歩と後退する。


ルイーズ「あなたの抱える秘密を、今ここでバラされたい?」

◯ルイーズ、勝利の微笑みを浮かべ、総一郎に触れようと手を伸ばす。

総一郎「やっ……やめろっ! 望月さくらっ! 俺と一緒に来い!」
さくら「きゃっ! 鳥羽さんっ、ちょっと」

◯総一郎、さくらの手を取ってダッシュでその場を去る。

ルイーズ「あら? 彼女は平気なんだ」

◯ルイーズ、手を繋いで走り去る二人を、不思議そうに見ている。


◇◇◇大学内の空き教室に総一郎とさくらの二人きり◇◇◇

◯二人の間に気まずい沈黙が流れる。

さくら「なんだ……鳥羽さん、婚約者いるんじゃないですか」

◯下を向くさくら。

総一郎「ちっ……ちがうっ! 
    話を聞いてくれ! 望月さくら」

◯総一郎、本気で焦る。

さくら「車の修理の件は、バイトを増やしてなんとかしますので、
    もう、あたしのことをからかうのはやめていただけませんか?」

◯総一郎、さくらの言葉に凍りつく。

さくら「あたし、忙しいんですよ。
    正直、鳥羽さんのお遊びに付き合っている暇はないっていうか」

◯さくら、総一郎の前から去ろうとする。

さくらモノローグ

一刻もはやくこの場所から立ち去らなければって思った。

自分でも説明がつかないほど、妙なテンションで、
じゃないとなんか、泣いてしまいそうだったから。

◯総一郎、さくらの手をきつく握る。

総一郎「誰が……からかってるって?
    はぁ? お遊びだと?」

さくらモノローグ

鳥羽さんがキレている。
けど、もうかまうもんかっ!

さくら「離してくださいっ! 
    あたしをこれ以上みじめにしないでください」

さくらモノローグ

こうなることが、わかっていたから、
極力、この人に近づかないようにしていた。

その優しさを遠ざけようよした。
なのにこの人は……。

◯さくら、涙を流す。

総一郎「望月……さくら……?」

◯総一郎、さくらの涙を食い入るように見つめている。

さくら(くっそぉ、涙、止まれぇぇぇ。
    これじゃあ、あたしがまるで、鳥羽さんのこと……)

さくらモノローグ

そんなの、嫌だ。
だって悔しいじゃないっ!

総一郎「お前の気持ちはようくわかった。
    つまりこれは二人の合意ということだと俺は理解したからな」

◯総一郎真剣な顔をしている。

さくら(はぁ? 何をわけのわからないことを言っているのよ)

◯さくら、ちょっと苛ついて、泣きながら総一郎を睨みつける。
 総一郎は姿勢を正して、かつてないほど真剣な表情をしている。

総一郎「もういい、望月さくら。
    目を閉じて歯を食いしばれ」


さくら(なんでこの状況で、
    あたしが殴られなくっちゃならないのよっ!)

◯さくら白目をむく。

さくら(いくら帝王っていったってねぇ、そんなの犯罪じゃないっ!
    女の子に手を上げるなんて、最低よっ!!!)

◯さくら、目を見開いて、総一郎を睨みつける。

総一郎「望月さくらっ! 行くぞっ! 覚悟しろ」

さくら(なっ殴られるっ!)

◯さくら、恐怖にぎゅっと目を閉じる。

『ふにっ!』っという感触が唇に降りてくる。

さくら(えっ? ふにっ? ふにって何よ?)

◯恐る恐る目を開けると、総一郎の超美形な顔面ドアップ。

 さくら、反射的に思いっきり総一郎の身体を両手で突っぱねる。

さくら「はああああああああああ?」

◯さくら、腹の底からの疑問形を発する。

総一郎「望月さくら……お前なぁ」

◯総一郎、盛大なため息を吐く。

総一郎「せっかくのファーストキスだったのに、
    お前どんだけ色気ねぇんだよ」

◯総一郎、がっくりと肩を落とす。

さくら「いっいいいいいい色気とか、そんな問題じゃないでしょう?
    問題をすり替えないでよ! あなたには婚約者がいて」

◯さくら、動揺しまくる。

総一郎「はぁ? 婚約者? そんなもんは犬にでもくれてやれ。
    何が悲しくて他人に自分の結婚相手を決められにゃあならんのだ。
    お前こそ、問題をすり替えるなよな。
    俺が好きなのは、他の誰でもなくお前だっつうの!」

さくらモノローグ

お前だっつうの!
お前だっつうの!
お前だっつうの!

鳥羽さんの問題発言が、延々とあたしの頭の中にコダマしていた。







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