婚前一夜でクールな御曹司の独占欲に火がついて~旦那様は熱情愛で政略妻を逃がさない~
 とはいえ明季のことは、自分では到底相応しくないと重々理解していた。成長著しい大企業の御曹司と、歴史だけはあるがほとんど没落している元華族の家の娘。つり合いがとれていないのは一目瞭然である。
 だから、この想いは秘めているつもりだった。秘めたまま、たまに社内で見かける姿にこっそり胸の内で黄色い歓声をあげ、そうして心の潤いにして満足していたのである。
 しかし十日ほど前、自分のことをうっとおしがっている叔父が持ってきた縁談の相手が――まさかの、御門明季その人だった。
 叔父から『見合いをしろ』と言われたときは、いつかこんな日がくると思っていたと、諦めにも似た気持ちだった。
 花城家の家計は慎ましいものだったが、その中でも両親は代々花城家の人間が通う私立の学園に幼小中高と通わせてくれて。大学は金銭的負担の少ない国立大学を自分で選んだが、それでも、そうしてお金をかけてもらった恩はいつか家に返すべきだと、少なくとも蘭はそう考えていたのだ。
 両親と過ごしたこの邸と離れがたくて、叔父夫婦が移り住んできてからも給料のほとんどを家に入れることを条件に、住み続けてきた。そんな思い入れのある家を出るときが、とうとうきたのだ――というしんみりした感傷も、縁談相手の名前を聞いた瞬間いっぺんに頭から吹き飛んだ。それほどの衝撃だったのだ。

 政略結婚の相手が偶然好きな人だったなんて、なんという僥倖。これまで清く正しく生きてきて、本当に良かった。悪いことができない性格に産んでくれた天国と父と母に、ものすごく感謝した。
 しかし重ねるが、これは政略結婚。つまり、勝手に想いを寄せていた蘭はともかく、明季の方にはまったく気持ちなんてない。書類上だけの夫婦。
 けれどそうなった以上、明季は蘭を抱くだろう。蘭に子どもを産ませるため。義務的に。御門と花城の血を残すための、いわば仕事である。
 それは寂しいな、と、蘭は思った。せめて一回くらいは、思いきり甘く抱かれてみたい。まるで恋人みたいに、好き合っている者同士のように。
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