婚前一夜でクールな御曹司の独占欲に火がついて~旦那様は熱情愛で政略妻を逃がさない~
 花城蘭は、よろこびに打ち震えていた。

(まさか、あの御門副社長と結婚することになるなんて……!)

 自室のベッドにうつ伏せで寝転びながら器用に音をたてず両足をバタつかせ、蘭は手にしているスマートフォンをうっとりと眺める。
 ちなみにこの“うっとり”も、自分ではそうしているつもりなのだが、傍から見ればただの無表情であるらしい。自分の感情と表情が一致しないのは、蘭の幼い頃からの特徴である。
 両手で持つスマートフォンのディスプレイには、一週間ほど前に連絡先を交換した明季とのSNSのトーク画面。

【それでは十五日金曜日の二十時に、東都ホテルで。俺の名前で部屋を取ってあります。】

 最後に彼から送られたそのメッセージを眺め、ほう、と恍惚の息をつく。
 明日。自分は、憧れの人と一夜をともにするのだ。

『――大丈夫だから、おいで』

 もう何度思い出したかわからない、記憶の中の彼の声や姿が、脳裏に浮かぶ。
 ずっと、想いを寄せていた。まだ蘭が大学生だったとき、とある一件で彼に助けてもらい、ずっと明季のことが忘れられなかった。その後企業説明会で一方的に彼を見つけてからは、追いかけるように御門コーポレーションに入社した。以来これまで、ひそかに想いを募らせていたのだ。
 大人しそうな見た目に反し、蘭はとても行動派である。おまけに中学一年の頃病気で母が、大学二年の頃父が交通事故で亡くなるまで、両親に蝶よ花よとかわいがられたっぷりと愛情を注いでもらっていたおかげか基本的に自己肯定感が高く、ポジティブな思考の持ち主だ。
 自分の表情筋があまり働かないことも、両親や親しい幼なじみたちにはちゃんと気持ちが伝わっていたから、それほど不便さは感じていなかった。学校などで蘭がぼーっと『おなかすいたな……』としか考えていないときに周囲が『花城さんは今日もお淑やかでミステリアスね』などと勝手に解釈していたことも、実害はないので放っておいたし。まあお淑やかどころか、幼い頃の蘭は庭の木に登って遊ぶようなお転婆な子どもだったのだが。
< 9 / 11 >

この作品をシェア

pagetop