婚前一夜でクールな御曹司の独占欲に火がついて~旦那様は熱情愛で政略妻を逃がさない~
 翌日の昼下がり。大手住宅総合メーカー“株式会社御門コーポレーション”本社、その経理部のオフィスが、にわかにざわついた。

「こちらに、花城蘭さんはいらっしゃいますか?」

 そう言って顔を覗かせたのは、副社長である明季。出入口から一番近い場所にいた女性社員がのぼせたように顔を赤らめ、「はわ……」となんとも言えない気の抜けた声を漏らす。
 御門コーポレーション副社長の御門明季といえば、創業者である現社長の孫で。その若さによらず見事に社長の右腕としての実力を発揮しており、おまけに顔立ちやスタイルの良さまで芸能人もかくやというほど恵まれているという奇跡の人物である。
 清潔に整えられた短い黒髪に、涼しげな一重の目もと。高い鼻梁に形のいい薄い唇。すらりと高い身長は、百八十センチ以上はある。
 クールな美貌の彼は声まで魅力的で、荒らげたところなど社員の誰も聞いたことがない、低く静謐な話し方と声音が特徴だ。あの声に耳もとでささやかれたい……と多くの女性社員、たまに男性社員が密かな願望を持っている。

「はい、花城は私です」

 そんな社内の有名人に名指しされて注目を集める中、周囲の視線を気にする様子もなく小柄な女性が名乗り出た。
 目の前までやって来た蘭を見て「あなたが……」と明季が小さくつぶやいたのを、彼女だけは聞こえている。

「……すでに話がいっているかと思いますが、“例の件”で確認したいことがあります。少しお時間よろしいですか?」

 部下に対しても、明季はいつも敬語を崩さない。
 丁寧な言葉使いで、けれど有無を言わさぬ強い眼差しに見つめられ、蘭は素直にコクリとうなずいた。

「承知しました。すみません部長、少し席を外します」
「あ、ああ。いっておいで」

 近くにいた上司に声をかけ、蘭は歩き出した明季の背中についていく。
 ほどなくしてたどり着いたのは、同じフロアにあるミーティングルームだ。先に蘭を入室させ、後から入った明季がドアを閉めて鍵をかける。
 彼女が一番下手の椅子に座るのを見て、明季はその向かいの席に腰を下ろした。
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