婚前一夜でクールな御曹司の独占欲に火がついて~旦那様は熱情愛で政略妻を逃がさない~
「業務中に突然連れ出してすみません。こうして直接話すのは初めてかと思いますが、俺は御門明季といいます。このたび、あなたの夫候補になりました」
淡々と、まるで『雨が降っていますね』レベルの世間話でもするように話す明季を、蘭もまた静かな瞳で見つめている。
まばたきひとつ分の間の後、彼女は応えた。
「はい。自分の勤める会社の副社長のお顔とお名前ですので、存じ上げておりました。経理部の花城蘭です。おそれながら、あなたの妻候補となりました」
明季と同じような温度感で、蘭が返す。そんな彼女の反応に、明季は不躾だと知りながらまじまじと目の前の女性を眺めた。
肩を少し越す長さの艶やかな黒髪。同じ色の、黒目がちな大きな瞳。その左目の下にある泣きボクロ。二十四歳と聞いていたが、もっと若くも見える童顔だ。小柄だし、身長は百八十三センチある明季より三十センチは低いのではないだろうか。
しかし表情はその若さに見合わぬ静かに落ち着いたもので、整った顔立ちもあって人形めいた雰囲気がある。
(もしかしたら俺たちは、似た者同士なのかもしれない)
良家のひとり娘という先入観で、なんとなく、おっとりとしたご令嬢か、もしくは気位の高そうな高飛車な性格を想像していた。
しかし今現在明季と対面している花城蘭という女性は、そのどちらにも当てはまりそうにない。感情が表に出ずらくて相手に威圧感を与えやすい自分と向き合ってもなお怯むことなく応じる、むしろこちらと同じような性質すら感じる彼女に、自分でも予想以上の好感を持つ。
この分では回りくどい気遣いは必要なさそうだと、さっそく明季は本題に切り込んだ。
「候補とはいっても、俺たちの婚姻はほぼ決定事項です。なので今日は、親族を含めた正式な顔合わせ前に一度挨拶をと」
「そうでしたか。わざわざ御足労いただきましてありがとうございます」
ぺこ、と軽く頭を下げる彼女にまっすぐ視線を向けたまま、明季は続けた。
「驚かないのですね」
「え?」
「俺たちの婚姻は、決定事項だというところです」
明季の言葉に、蘭がきょとんと首をかしげる。
「ええ。我が家はそちらから援助をしていただけて、対価としてこちらは歴史だけは古い花城家の人脈を融通するというお約束なのでしょう?」
「まあ、有り体に言えばそうですね」
「では私からは、花城家の娘として、口を挟むことなどございません」
逸らすことなく目を見つめながら答えられ、明季の方が少したじろぐ。
一昔前の時代ならまだしも、うら若き女性が家のために婚姻を決められることに、悲壮感や反抗心など抱かないのだろうか。
静かな蘭の表情からはその内面がうかがい知れず、明季はそれをもどかしいと感じた自身の心の動きに、少し戸惑う。己の鉄面皮は棚に上げて。
淡々と、まるで『雨が降っていますね』レベルの世間話でもするように話す明季を、蘭もまた静かな瞳で見つめている。
まばたきひとつ分の間の後、彼女は応えた。
「はい。自分の勤める会社の副社長のお顔とお名前ですので、存じ上げておりました。経理部の花城蘭です。おそれながら、あなたの妻候補となりました」
明季と同じような温度感で、蘭が返す。そんな彼女の反応に、明季は不躾だと知りながらまじまじと目の前の女性を眺めた。
肩を少し越す長さの艶やかな黒髪。同じ色の、黒目がちな大きな瞳。その左目の下にある泣きボクロ。二十四歳と聞いていたが、もっと若くも見える童顔だ。小柄だし、身長は百八十三センチある明季より三十センチは低いのではないだろうか。
しかし表情はその若さに見合わぬ静かに落ち着いたもので、整った顔立ちもあって人形めいた雰囲気がある。
(もしかしたら俺たちは、似た者同士なのかもしれない)
良家のひとり娘という先入観で、なんとなく、おっとりとしたご令嬢か、もしくは気位の高そうな高飛車な性格を想像していた。
しかし今現在明季と対面している花城蘭という女性は、そのどちらにも当てはまりそうにない。感情が表に出ずらくて相手に威圧感を与えやすい自分と向き合ってもなお怯むことなく応じる、むしろこちらと同じような性質すら感じる彼女に、自分でも予想以上の好感を持つ。
この分では回りくどい気遣いは必要なさそうだと、さっそく明季は本題に切り込んだ。
「候補とはいっても、俺たちの婚姻はほぼ決定事項です。なので今日は、親族を含めた正式な顔合わせ前に一度挨拶をと」
「そうでしたか。わざわざ御足労いただきましてありがとうございます」
ぺこ、と軽く頭を下げる彼女にまっすぐ視線を向けたまま、明季は続けた。
「驚かないのですね」
「え?」
「俺たちの婚姻は、決定事項だというところです」
明季の言葉に、蘭がきょとんと首をかしげる。
「ええ。我が家はそちらから援助をしていただけて、対価としてこちらは歴史だけは古い花城家の人脈を融通するというお約束なのでしょう?」
「まあ、有り体に言えばそうですね」
「では私からは、花城家の娘として、口を挟むことなどございません」
逸らすことなく目を見つめながら答えられ、明季の方が少したじろぐ。
一昔前の時代ならまだしも、うら若き女性が家のために婚姻を決められることに、悲壮感や反抗心など抱かないのだろうか。
静かな蘭の表情からはその内面がうかがい知れず、明季はそれをもどかしいと感じた自身の心の動きに、少し戸惑う。己の鉄面皮は棚に上げて。