繋いだ手、結んだ指先で。
「り、理真くんが、言ってたの」
涙に邪魔されながら、立川先生に伝える。
「泣きたくなったら、大切な人のそばで泣いてって。わたしのそばにいてくれる人と一緒なら、泣いてもいいって」
わたしが北条くんを失った悲しみを耐えられないことを、北条くんはわかっていたのだと思う。
だから、あの約束をしてくれた。
北条くんがいない今、わたしの心を守るための約束。
「ここでなら、泣いてもいい……?」
北条くんとの始まりの場所だから。
ずっと見守ってくれていた、立川先生のそばだから。
涙ながらに伝えると、立川先生はもちろん、と優しく頷いて、わたしのそばにいてくれた。
廊下が騒がしいし、生徒は新しい教室に集まっていると思う。
それでも立川先生はわたしを急かすことなく、話してくれる。
「北条くんね、亡くなる前にここに来たことがあったんだよ」
「……え?」
「すぐに帰ったから三瀬さんは知らないだろうけど、11月の半ば頃に、お姉さんに付き添われてね。そのとき、三瀬さんのことを頼まれてたの」
11月なら、わたしが最後に会った日のあとのことだ。
わざわざそのために学校に、立川先生に会いに来たのだろうか。
「ああ、いや、それだけじゃなくて。お礼をね、言いに来てくれたの。最後は直接顔を見て、伝えたかったって」
「北条くんと立川先生って」
「先生、養護教諭になる前は病院の看護師だったんだ。何年か小児科にいたときに会ったのが北条くん」
ずっと、気になっていた。
わたしが北条くんの声を聞いてしまったあの日のこと。
1年生の秋、それも登校したことのなかった北条くんが、余命に関する大切なことを立川先生に話していた理由。
もしかしたら、ここに来る前に関係があったんじゃないかって、何となく思っていた。
「北条くんが入学するまでは連絡も取ってなかったんだけど、お互いに名前を見つけて再会したのよ。わりと早い段階で、三瀬さんのことも聞いて、木曜日なら会えるかもって話したら本当にそうなって、先生もほっとしてたんだよ」
「そうだったんだ……」
「泣きたいときも、北条くんの話をしたいときも、いつだってここに来ていいんだからね」
立川先生は先回りしてそう言ってくれた。
涙が止まってから、新しいクラスに向かい全員が揃うと空席はなくて、そのことがまた寂しかったけれど、もう泣きはしなかった。