繋いだ手、結んだ指先で。
◇
4月。
3年生になる朝、通常よりも早く家を出た。
誰もいない通学路を歩いて、学校に着くと生徒はまだひとりも姿がない。
クラス表が貼り出された場所を遠目に見つけて、そこを目指す途中、ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。
期待ではなくて、不安で胸がいっぱいだった。
震える手を握りしめて、クラス表の前に立つ。
自分の名前を探すと、すぐに見つかった。
3年3組。
三瀬結衣。
わたしの名前の上に、北条くんの名前はない。
「っ、やだ……」
他のクラスの名前も全部探した。
それなのに、北条くんの名前はどこにもない。
「やだっ、いやだ」
北条くんはわたしと同じクラスにいるはずなのに。
ずっと、途切れることなくそうなっていたのに。
「理真くん……っ」
ぽろっと目から涙がこぼれ落ちて、慌てて袖で拭う。
泣かないでほしいって北条くんが言ったから、わたしは北条くんがいなくなったあと、本当に泣かなかった。
家族や朱那の前でだけ、時々、泣いてしまうことはあったけれど、ひとりで泣くことはなかった。
だから、今も、泣くのはだめだ。
ぐいっと乱暴に涙を拭いて、新しい教室ではなく保健室に向かう。
ノックをしても返事はなく、鍵は開いていたから中に入る。
誰もいない保健室の電気をつけた。
立川先生の机の横に背中をつけて、ずりずりと座り込む。
膝を抱きしめる両腕に爪を立てると痛みで涙が引っ込む。
それも長くはもたなくて、早くと心の中で願ったとき、ドアが開く音が聞こえた。
「あれ? 電気つけたっけ」
立川先生の声だと気付いた瞬間、目縁から決壊して涙が溢れ出す。
「立川せんせ……」
「わあっ! びっくりした……三瀬さん?」
持っていた書類を落として、驚いた立川先生はわたしの顔を見ると急いで近くに来てくれた。
「どうしたの、北条くんのこと、思い出しちゃった?」
「うん、うん」
「隣の部屋、入ろうか。先生も行くから」
ここにいたら、他の生徒が来るかもしれない。
立川先生に連れられて、相談室に入るけれど、北条くんと過ごしたこの場所は余計に涙を誘う。
去年の2学期以降、カウンセリングも受けていなくて、立川先生がそれとなく誘ってくれても断っていたから、保健室に近付くのも久しぶりだった。
それでもすぐに受け入れてくれた立川先生に支えられて、ソファで声を上げて泣く。