繋いだ手、結んだ指先で。





4月。

3年生になる朝、通常よりも早く家を出た。


誰もいない通学路を歩いて、学校に着くと生徒はまだひとりも姿がない。

クラス表が貼り出された場所を遠目に見つけて、そこを目指す途中、ドクドクと心臓が嫌な音を立てる。

期待ではなくて、不安で胸がいっぱいだった。


震える手を握りしめて、クラス表の前に立つ。

自分の名前を探すと、すぐに見つかった。

3年3組。

三瀬結衣。

わたしの名前の上に、北条くんの名前はない。


「っ、やだ……」


他のクラスの名前も全部探した。

それなのに、北条くんの名前はどこにもない。


「やだっ、いやだ」


北条くんはわたしと同じクラスにいるはずなのに。

ずっと、途切れることなくそうなっていたのに。


「理真くん……っ」


ぽろっと目から涙がこぼれ落ちて、慌てて袖で拭う。

泣かないでほしいって北条くんが言ったから、わたしは北条くんがいなくなったあと、本当に泣かなかった。

家族や朱那の前でだけ、時々、泣いてしまうことはあったけれど、ひとりで泣くことはなかった。

だから、今も、泣くのはだめだ。

ぐいっと乱暴に涙を拭いて、新しい教室ではなく保健室に向かう。


ノックをしても返事はなく、鍵は開いていたから中に入る。

誰もいない保健室の電気をつけた。

立川先生の机の横に背中をつけて、ずりずりと座り込む。


膝を抱きしめる両腕に爪を立てると痛みで涙が引っ込む。

それも長くはもたなくて、早くと心の中で願ったとき、ドアが開く音が聞こえた。


「あれ? 電気つけたっけ」


立川先生の声だと気付いた瞬間、目縁から決壊して涙が溢れ出す。


「立川せんせ……」
「わあっ! びっくりした……三瀬さん?」


持っていた書類を落として、驚いた立川先生はわたしの顔を見ると急いで近くに来てくれた。


「どうしたの、北条くんのこと、思い出しちゃった?」
「うん、うん」
「隣の部屋、入ろうか。先生も行くから」


ここにいたら、他の生徒が来るかもしれない。

立川先生に連れられて、相談室に入るけれど、北条くんと過ごしたこの場所は余計に涙を誘う。

去年の2学期以降、カウンセリングも受けていなくて、立川先生がそれとなく誘ってくれても断っていたから、保健室に近付くのも久しぶりだった。

それでもすぐに受け入れてくれた立川先生に支えられて、ソファで声を上げて泣く。

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