繋いだ手、結んだ指先で。
「知ってたの。言わなくて、黙っていて、ごめんなさい」
泣いていた北条くんの声を、今でも思い出せる。
『立川先生、僕、もうあと1年なんだって』
また新しい涙が目の縁に貯まって、瞬きと同時に落ちた。
北条くんは目を見張って、乾いた唇からは言葉にならない息が漏れる。
「ごめんなさい」
それしか言えなくて、もう、北条くんの顔を見られない。
俯いていると、ベッドのスプリングが軋む。
「三瀬さんは、それが僕だってわかったから、一緒に過ごしてくれたの?」
「ちがう、そうじゃないよ」
「じゃあ、どうして」
そばにいたい理由が、好きだからと言えたらどんなにいいだろう。
もう、誤魔化しや嘘のない自分で北条くんに向き合いたいのに、この気持ちは伝えられない。
理由を聞かれても答えられずにいると、北条くんの声が明らかに落胆したものに変わる。
「僕は、三瀬さんと過ごす時間が楽しかった。元気に、なれるから。三瀬さんが聞いていた通り、僕の時間はもう1年もない。学校に来られるようになったのは、薬を止めて副作用がなくなったからなんだよ」
きっととても大事なことを、北条くんは話してくれている。
何でも教えてくれるって言葉は嘘じゃなかったんだ。
わたしだけが嘘つきで、向き合ってくれる北条くんに対して、逃げてばかりだ。