繋いだ手、結んだ指先で。


「先生が内緒にしてほしいってお願いしたから、三瀬さんにも苦しい思いさせちゃったね」


あの日、わたしがいたことを北条くんが知っていたら。

聞いてしまったのだと、あの日に伝えていたら。

そんなもしもを想像して、首を横に振る。


そもそも、あのときはそこにいた人が北条くんだと知らなかったのだから。


「北条くんはわたしの気持ちを知りたいって言ってくれたのに、わたし、何も伝えられていない」


好きだと伝えなくても、言えることはあったはずだ。

あんな顔をさせたくて、一緒にいたわけじゃない。


「三瀬さんは優しいね」
「優しいのは、北条くんです」
「北条くんも三瀬さんも優しいんだよ。お互いのことを思ってる」


どう考えたって、優しいのは北条くんだ。

わたしはその優しさに乗っかっているだけ。


立川先生の声は魔法みたいに柔らかく耳に入って、絡まった糸を一本一本解いてくれる。


「北条くんに会えたら、もう一度話してみよう? 北条くんだってまだ話せていないことがあるかもしれない。少し落ち着いたら、三瀬さんも話せることが見つかるよ」


今は立川先生の助言を信じることにして、シーツに顔を伏せたまま、頷いた。

< 43 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop