繋いだ手、結んだ指先で。
「先生が内緒にしてほしいってお願いしたから、三瀬さんにも苦しい思いさせちゃったね」
あの日、わたしがいたことを北条くんが知っていたら。
聞いてしまったのだと、あの日に伝えていたら。
そんなもしもを想像して、首を横に振る。
そもそも、あのときはそこにいた人が北条くんだと知らなかったのだから。
「北条くんはわたしの気持ちを知りたいって言ってくれたのに、わたし、何も伝えられていない」
好きだと伝えなくても、言えることはあったはずだ。
あんな顔をさせたくて、一緒にいたわけじゃない。
「三瀬さんは優しいね」
「優しいのは、北条くんです」
「北条くんも三瀬さんも優しいんだよ。お互いのことを思ってる」
どう考えたって、優しいのは北条くんだ。
わたしはその優しさに乗っかっているだけ。
立川先生の声は魔法みたいに柔らかく耳に入って、絡まった糸を一本一本解いてくれる。
「北条くんに会えたら、もう一度話してみよう? 北条くんだってまだ話せていないことがあるかもしれない。少し落ち着いたら、三瀬さんも話せることが見つかるよ」
今は立川先生の助言を信じることにして、シーツに顔を伏せたまま、頷いた。