繋いだ手、結んだ指先で。


わたしが今、伝えたいこと。

わたしが今、会いたい人。


「わたし……北条くんに、会いたいです」


熱くなった目頭を押さえる。

最近は泣いてばかりだ。

悲しいのではなくて、辛いのでもなくて、ただ感情が昂ると涙も一緒に溢れてしまう。


『結衣ちゃんは今どこにいるの?』
「駅から真っ直ぐの通りにある、ホームセンターが2店舗並んだところです」
『あの辺か。わかった。20分くらいで行くから待ってて』


突然頼んだことなのに、お姉さんはすぐに了承してくれた。

家の場所を聞けたらと思っていたのに、迎えに来てくれると言って、電話が切れる。


街路樹で日陰になっている場所にベンチがあったから、そこに座って、まだ熱を持つ目元をなぞる。

本当はこの後北条くんに会って伝えることを考えたかったのに、言葉は泡のように浮かんではぱちんと弾けて消える。

電話が切れたあとのスマホを持って、ただ風に揺れる木々の音を聞いていた。


「結衣ちゃん! こっち」


ちょうど20分が経つころ、路肩に一台の軽自動車が止まった。

助手席の窓が開いて、運転席に座る北条くんのお姉さんがわたしを手招く。

内側から助手席のドアを開けてもらって、車の中に乗り込む。


「暑かったでしょ。これ飲んで。好きなの選んでいいよ」


すぐに走り始めた車の中で、お姉さんから渡されたのは紅茶、ジュース、炭酸、お茶と様々な種類の飲み物が入ったビニール袋。


「何が好きかわからなくて適当に買っちゃった」
「ありがとうございます、お茶、いただきます」
「お茶でいいの? 遠慮してない?」
「はい、お茶で。お姉さんはどれにしますか?」


どれでもすぐに渡せるように袋の中を漁っていると、赤信号で車が止まってお姉さんはじっとこちらを凝視する。


「お姉さんだなんて! 亜希でいいよ、私、北条亜希」
「亜希、さん」
「前に連絡先を渡したときに教えなかったっけ? というか、その前に会ってるのにね」
「はい、まだ、聞けてなかったと思います」


名前がわからないから、心の中でも北条くんのお姉さんと呼んでいた。

そのことを伝えると、お姉さん──亜希さんはハンドルを叩きながら声を上げて笑う。

< 49 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop