繋いだ手、結んだ指先で。
「これ、姉ちゃんから。俊兄の連絡先」
「え……」
「夜は空いてるって。一緒には行かないけど、祭りの会場にはいるから、少しでも変だって思ったら僕も連絡する」
渡されたメモは、以前亜希さんからもらった連絡先の書かれたメモと同じものだった。
亜希さんのときには書いていなかったけれど、【北条 俊】とお兄さんの名前が書かれていて、電話番号が載っていた。
その場でスマホに登録しながら、ちらっと北条くんを見る。
ちょうど別のところを見ていて、わたしの視線には気付いていない。
この流れで、北条くんの連絡先を聞けたらと、幾度となく逃してきたチャンスを今ここでと思うのに、口を開こうとすると言葉が出てこない。
怖いんだ。
もし、連絡先を聞いて、断られたらって。
今までにも聞くタイミングはあったし、北条くんがもしわたしの連絡先を知りたいと思っているのなら、聞かれるタイミングだって何度もあったのに。
もし、聞くとしてもお祭りに行った後にしよう。
それなら、少し気まずくなっても耐えられる。
わたしがそんなことをひっそりと決意していると、登録できた? と北条くんがこっちを向く。
とっくにお兄さんの連絡先を登録し終えたスマホは画面が暗くなっていた。
「この後、姉ちゃんが来て一度家に帰ってから行こうと思うんだけど、三瀬さんも家に来る? それとも、待ち合わせ?」
「制服は着替えたいからわたしも一度家に帰るよ。待ち合わせ、するならどこがいいかな。お祭りの会場だと人が多いだろうし、少し外れの方だけど図書館があるのはわかる?」
「広場に噴水がある図書館?」
「そう、そこ。河川敷まで歩いていけるし、どうかな」
「いいと思う。17時頃で大丈夫?」
17時なら部活生はまだ学校にいる時間。
一度家に帰って支度をしてからだとギリギリの時間だけれど、これ以上遅くすると知り合いに会う確率がぐんと上がる気がする。
「それじゃあ、17時に図書館で。亜希さんはこのあと来るんだよね。わたし、今日は先に帰ってもいい?」
「うん。あと10分くらいで来るから僕も一度帰るよ。三瀬さん、気をつけて来てね。また後で」
いつもは北条くんを見送って帰るから、変な感じ。
来たドアから先に帰るわたしを北条くんが手を振って見送ってくれる。
相談室を出たあとは、早足に家に帰った。