繋いだ手、結んだ指先で。
「行こう」
手を繋いだとき、一瞬、嬉しそうに口角を上げていた。
その顔をきゅっと瞬時に引き締めて、北条くんは歩き始める。
河川敷に向かうにつれて、人が増えて辺りも賑やかになっていく。
屋台はたくさんあるのにどこにも目をくれず、メインステージの方へと進んでいく北条くんの手を引く。
「北条くん、気になるステージがあるの? もし違うなら、この先は人も多くなるし、引き返そう?」
特設されたステージで行われるパフォーマンスや催しの詳細は知らない。
ただ、そこら辺に貼ってあるスケジュールを見る限り、北条くんの興味がありそうな感じではないと思う。
わたしが声をかけると、北条くんははっとして、キョロキョロと周りを見渡した。
「ごめん、周り、あんまり見てなくて。少し引き返そうか」
「北条くん、もしかして人が多くてびっくりしちゃった?」
「いや、そんなのじゃないよ」
キャップを被って俯いてしまったら、どんな顔をしているのかわからない。
手を引かれるままに引き返す途中でも、北条くんは屋台に足を止めようとしなかった。
「北条くん、かき氷、食べない?」
「え……」
「しょっぱいものを先に食べたかったら、焼きそばとか……向こうで待ってていいよ。わたし、買ってくるから」
表情がはっきりと見えなくても、緊張のようなものが手から伝わってくる。
人混みになれていないからとか、暑さとか、色々と考えて、来たばかりだけれど一度座って休んでもいいと思う。
北条くんの手を解こうとすると、指先が離れる寸前に、繋ぎ止めるように掴まれた。
「違うんだ、ごめん。三瀬さん、僕……」
ようやく、北条くんが顔を上げたから目を見ることができた。
北条くんが口を開いて、その言葉を全て聞き切る前に。
「あれ、三瀬?」
ちょうど、後ろを通りかかった2人組のひとりが、わたしに気付いて声をかけた。