繋いだ手、結んだ指先で。


固くなった焼きそばと冷めたたこ焼きを2人で分け合って、時間を見るとまだ18時前。

佐原くんたちにああ言われたあとで、もう一度屋台を見に行こうとは言えなくて、じわじわと暑さが込み上げる中、ベンチに座り続ける。


花火を見ようと話していたわけではない。

ただ何となく、お祭りといえば花火まで見ると思っていた。

あと1時間半もここにいるのは、北条くんにも負担だろうし、何よりわたしの居心地が悪い。


帰ろっか、と言いかけたとき、北条くんの頭が倒れてきて、わたしの肩に乗っかった。

体調が悪くなったのかと慌てるけれど、そうではないようで、北条くんの顔色も呼吸も穏やかだ。


「少しだけ、このままで」


風の音のような、川のせせらぎのような、耳に馴染む心地の良い声。


来週、夏休みになったら、北条くんとはしばらく会えなくなる。

今日の思い出は、はたして北条くんの治療の励みになるほど、いいものだっただろうか。

北条くんは、いつもよりも、笑っていない。

こんなことなら、お祭りなんかに来なくて、いつもより長い時間相談室にいてふたりで話していた方がよかった。

いつも通りを崩さずに、わたしも普段と変わらずに北条くんと接していたらよかった。


後悔したくないのに、笑っていてほしいのに、いつも空回ってしまう。


「北条くん」


肩に北条くんのぬくもりを乗せたまま、名前を呼ぶ。

北条くんは、小さく返事をしてくれた。


「……わたし、北条くんが好きだよ」


以前、気持ちを伝えたときは、半分勢いだったし、恥ずかしかったし、いっぱいいっぱいだった。

でも、伝えられてほっとしていたと思う。

好きってきっと、こんなに苦しい想いで伝えるものじゃない。


「……ありがとう、三瀬さん」


同じ気持ちを返してくれることもなくて。

北条くんの手に触れると、ぬくもりは移るけれど、あのときのように、わたしと同じ気持ちなんだって感覚は伝わってこない。

握り返されることもなく、指先は絡まる前に解けた。

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