繋いだ手、結んだ指先で。
繋いだ手、結んだ指先
◇
お祭りの日以来、北条くんには会えていない。
お祭りの日の別れ際、北条くんはわたしの手を一度ぎゅっと握って、いってきます、と言った。
励ましの言葉もかけられなくて、またねと言ったわたしに、北条くんは笑って同じ言葉を返してくれた。
佐原くんと吉松くんは、お祭りで北条くんを見たこともわたしといたこともクラスメイトには話さずにいてくれて、いつも通りの日常で夏休みを迎える。
北条くんの連絡先は知らないままで、たまに亜希さんが連絡をくれた。
わたしにできることは、北条くんの治療が上手くいくことと、少しでも苦しくない時間を過ごせるように、祈ることだけ。
毎日が途方もなく長く感じられて、夏の終わりに寂しさを感じることもなく、ただ、これから訪れる秋が怖かった。
永遠のような夏休みが明けて、9月。
最初の金曜日に相談室を訪れると、鍵がかかっていて開かなかった。
保健室のドアをノックして中に入ると、立川先生だけがいた。
「三瀬さん、久しぶり。元気にしてた?」
「うん、元気。立川先生は?」
「先生も変わらず元気よ」
夏休み前と変わらない立川先生を見ていると安心する。
椅子に向かい合って座ると、話題に上るのはただひとり。
「北条くんのこと、三瀬さんは何か聞いてる?」
「入院が9月の終わりまで伸びるって、亜希さん……北条くんのお姉さんが教えてくれました」
薬の効果が出たから入院が伸びたのか、病状が悪化して退院できなくなったのか、亜希さんは教えてくれなかったしわたしも聞かなかった。
ここに来ても、北条くんはいないと分かっていたのに、訪ねずにはいられなかった。
それくらい、金曜日の放課後は特別だった。