繋いだ手、結んだ指先で。
それから1月が過ぎて、久しぶりに亜希さんから連絡があった。
内容は、北条くんが退院したという話。
それから、次の金曜日には学校に行くということだった。
電話口で、思い切って北条くんの病気のことを聞いてみた。
そのときすぐには返事をもらえなくて、少ししてから再びかかってきた電話で『理真が直接話したいって言ってるよ』と言われ、わたしは北条くんが今どんな状態でいるのかを知らないまま、金曜日を迎えようとしていた。
「あ」
「……あ」
週の最後、金曜日。
人がほとんどいなくなったのを見計らって、相談室に行こうと教室を出たとき、ちょうど目の前を通りかかった人が足を止める。
遠藤くん。
北条くんと一緒にいたときに鉢合わせて以来、顔を見ることはあっても話すことはなかった。
すでに制服を着替えていて、これから部活に向かうところなのだろう。
つい声を上げたけれど引き止める気はなくて、一歩後ろに下がる。
このまま去っていくと思ったのに、遠藤くんは足を止めたまま、周りに誰もいないか確認して口を開く。
「理真、今日来てるよ」
「……うん、知ってる」
部活の前に顔を出すことがあると言っていたから、今日も行っていたのかもしれない。
もしくは、幼馴染みなら、家に帰ってきたことを知っていたかのどちらかだと思う。
「会ってやって。あいつ、すげえ頑張ったから」
言われなくても、とつい冷たく言ってしまいそうになるのを慌てて飲み込んで、小さく頷く。
遠藤くんの脇をすり抜けて行こうとしたとき。
「俺が言うことじゃないって、わかってる」
「……え?」
「でもあいつ、多分言わないだろうから。……あいつさ、理真は、三瀬さんのこと」
「言わないで」
遠藤くんが何を言おうとしたのか、わたしは多分、聞かなくてもわかる。
痛いほど、切ないほど、北条くんといて感じてきたから。
北条くんが言わない想いを、わたしが人から聞いてはいけないと思う。
逆の立場なら、遠藤くんがいっそ伝えてしまえと思う気持ちもよくわかるけれど、その想いを受け取るなら北条くんの言葉がいい。
わたしが遮ると、遠藤くんはそれ以上続けようとはしなかった。
遠藤くんとは反対側に歩いて、階段を降り、相談室のドアをノックする。