繋いだ手、結んだ指先で。
どうぞ、と聞こえた声は、わたしがずっと待っていた声だ。
聞き間違えることのない、大切な人の声。
それだけで鼻の奥がつんと痛むのを感じながら、奥歯を噛んでやり過ごす。
深く深呼吸をしてから、ドアを開けた。
「……北条くん」
ソファに座る背中は、以前よりもほっそりとしていた。
まだ暑さが残る時期なのに、長袖を羽織っていて、その袖越しにもわかる腕の細さ。
こっちを見た北条くんは、少しだけ頬が痩けて薄い唇は血色が良いとは言えないけれど、以前の面影のままだった。
「三瀬さん」
隣に座ると、柔らかい声が耳をくすぐる。
優しい陽だまりの中で、ふたりだけの空間で、穏やかな時間を過ごすことが、何よりも幸福だったことを思い出す。
「終わったよ、全部」
何が、と聞かなくても、それだけで全てがわかる。
抗がん剤を使った治療は、本来長期間のサイクルを繰り返すものらしい。
聞きかじりの、インターネットで得ただけの情報。
早くこの場所で北条くんに会いたかった。
けれど、この場所で再会する意味が、必ずしも良い意味ではないことは、わかっていた。
「これ以上は、見込みがない。だから、僕の治療はおしまい」
淡々と話す北条くんの隣で、膝の上に置いた両手をぎゅうっと握る。
手のひらに爪を立てても、唇を噛んでも、目に浮かぶ涙は止まらなくて、こぼれ落ちていく。