繋いだ手、結んだ指先で。


叶うといいと思っていた。

でも、本当に叶うと信じてはいなかった。

きっととても難しいことだとわかっていたから。


北条くんは驚いた顔で声も発しなくて、ただじっと息をしていた。


椅子ごと振り向いて、北条くんの机越しに向き合う。

空っぽだった席に、北条くんがいる。

教室の、わたしの日常に、北条くんがいる。


「……ありがとう、三瀬さん」


ようやく口を開いた北条くんは、わたしを真っ直ぐに見つめてそう言ってくれた。

薄い唇が弧を描いて、わたしの好きな柔らかい笑みを浮かべる。


「ここに来られてよかった」


わたしに向けて言ったのかはわからなかったけれど、北条くんは小さく呟くと、手を伸ばして窓を開け、目を伏せた。

夏の終わりを感じさせる風が舞い込んで、北条くんとわたしの髪の毛を揺らす。

心地のよい風を受けながら、わたしも目を瞑る。


「8回、同じクラスになったんだね」


ふと、4月に保健室で会ったとき、北条くんだと気付いて一番に言ったことが『また同じクラスなんだよ』だったことを思い出した。

あのときは、8回目だって数えてることを北条くんに隠したけれど、今ならと思って伝える。

ずっと一緒だったんだよ、と続けて、目を開けると北条くんも薄らと目を開いていた。


「知ってるよ」


確か、あのときも北条くんは同じ返事をした。

ほんの些細な、小さなことも取りこぼさずに、ちゃんと全部覚えてる。

< 87 / 106 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop