繋いだ手、結んだ指先で。


「で、でも……わたしが北条くんの寄せ書きに書くことを変えたのって、4年生のときでしょ。クラス替えの前だよね」


回らない頭で感じた疑問をようやく手繰り寄せて伝えると、北条くんはぎくっと肩を揺らした。


「三瀬さんは絶対に覚えていないと思うけど、小学1年生の最初の頃は体調もよくて、続けて登校してたんだよ。三瀬さんもさっき言ってたように、名字が近いから席も前後で、最初に話しかけてくれたのが、結衣ちゃん、だったから……」


言葉の最後の方は小さくなって、ごめんもう、と口元を手を塞いでしまう北条くんの顔は真っ赤になっていた。

北条くんの言うように、そんな昔のことは全然覚えていない。

1年生の最初の頃なんて、学校生活は真新しいし周りは知らない子ばかりで、とにかく誰かに話しかけたり友だちを作ろうとするものだと思う。

そのうちのひとりを、特別に覚えてはいない。

北条くんも期待はしていなかったようで、わたしが知らないと言っても落胆した様子ではなかった。


結衣ちゃん、と名前で呼ばれたことが照れくさくて、嬉しくて、口元を覆ったまま微動だにしない北条くんと同じくらい、顔が赤く染まっていると思う。

このままずっとここにいられたら、そう願うけれど、17時を報せるチャイムが鳴って、北条くんがふっと顔を上げる。

時計に目をやって、時間を確認したようで、腰を上げようとする北条くんの机に置かれた手を、引き止めるように握る。

筋張った手は、以前繋いだときよりも細くなっていた。

わたしが手を握っていると、北条くんは体の力を抜いて、椅子に留まってくれる。

もう少しだけ、という意図が伝わったのならと手を離そうとしたら、今度は北条くんから繋ぎ止められた。

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