繋いだ手、結んだ指先で。
顔を上げると、北条くんが目の前にいる。
もうずっとドキドキしていることがバレてしまいそうな距離。
「……北条、理真くん」
無性に名前を呼びたくなかった。
目の前にいる人が、手を繋いだ人が、わたしの好きな人が、北条くんなんだって、噛み締めるみたいに。
「もっと、呼んでほしい」
「北条くん」
「そっちじゃなくて」
「理真くん……?」
北条くんのお願いなら、小さなことでも大きなことでも、叶えてあげたい。
名前を呼ぶなんて簡単なことなら、本当にずっと、何度でもしてあげられる。
わたしも、そうしたいって、名前を呼びたいって思ってる。
「理真くん、あのね」
何度伝えても、慣れることはない。
返事がなくてもいい。
ただ、伝えたかった。
「わたし、理真くんのことが好きだよ」
この気持ちが目に見えたらいいのに。
理真くんの身体の中にいる、悪いものを倒す力があればいいのに。
形があって、色があって、ぬくもりがあって、離れている時間も北条くんの隣に置いていられたらいいのに。
繋いだ手と結んだ指先にできることを探しても、そっと祈ることしかできない。
悔しくて、歯がゆくて、でも北条くんはそれで十分だって笑うんだろう。
今も、きっと、そうだ。
ぎゅっと手に力を込めるのと一緒に瞑っていた目を開ける。
北条くんは、わたしの手に同じだけの力を返しながら、静かに涙を流していた。
両目からこぼれた涙が頬を伝って、机の上に落ちる。