繋いだ手、結んだ指先で。
「北条くんの家の庭にも花は咲いてる?」
「今は金木犀が咲いてるよ。窓を開けると、金木犀の香りがするんだ」
「向こうに咲いてた、ガーベラ? とか、そういうのはないんだっけ」
「僕がお世話できないのに任せるのは悪い気がして、草花は植えてない。秋に咲くのは金木犀くらいかな。春には、桜とハナミズキが咲いて……あ、ハナミズキは今、葉が赤くなって綺麗だよ」
北条くんは嬉々として、スマホで撮った家の花の写真を見せてくれた。
オレンジ色の金木犀は陽の光に照らされて金色に輝くようにも見える。
ハナミズキの葉がこの一週間でこんなに色付いたって写真をふたりで覗き込んでいると、通知音とともにメッセージのポップアップが表示された。
北条くんがすぐに指先で弾いたからメッセージは見えなかったけれど、京汰と書かれていたから送り主は遠藤くんだ。
メッセージのやり取りをしているのが羨ましくて、ついスマホから目を逸らしてしまう。
「北条くんは……連絡先、教えてくれないよね」
きっとそうだと思いながら、断定的な言い方をすると、北条くんは否定せずに頷いた。
「……ごめん、また、僕のわがままで」
「わがままじゃないよ。わたしもたぶん、聞いたら、ずっと話していたいとか言っちゃうだろうし」
「いつでも連絡ができたら、僕はきっと弱いところをたくさん、見せてしまう」
わたしがそんなことを気にしないと言っても、北条くんは譲らないと思う。
付き合うか付き合わないかと違って、わたしはずっと北条くんとの連絡手段がほしいと思っているけれど、繋がってしまったらわたしも弱音やわがままを吐いてしまうかもしれない。
だから、知らなくても大丈夫。
そう思うのに、遠藤くんとはやり取りをしているんだって思ったら、寂しさが込み上げてくる。
黙ってしまうわたしを気遣うように顔を覗いて、北条くんが言う。
「どうしても、声が聞きたくなったら、姉ちゃんに頼んで電話をかけてもいい? 寂しいとか、心細いとか、そういうときにも」
北条くんが尋ねているのに、まるでわたしにもそうしていいよ、と方法を示してくれたように感じる。
「北条くん、寂しくなることはあるの?」
「あるよ。今、結衣ちゃんの呼び方が北条くんに戻ってることとか」
「それって関係ある?」
「すごく関係ある。呼んでほしいな、名前」
こてっとわざとらしく首を傾げる北条くんの名前を、聞こえないくらい小さい声で呼ぶ。
もちろん、それで許してもらえるわけもなくやり直しを要求された。