繋いだ手、結んだ指先で。
もう会えないかもしれないから。
そんな呟きが聞こえた気がして、理真くん、と名前を呼ぶ。
北条くんは、返事はしなかった。
「小学生のころから、結衣ちゃんにたくさん、力をもらってた。あの子と遊びたいから、あの子に会いたいから頑張ろうって。結衣ちゃんのことが好きだって気付いてから、苦しいときもあったけど、後悔したことなんて、一度もない」
力の抜けた北条くんの手から逃れて、片手を背中に回した。
呼吸が少し苦しそうなのがわかったから、ゆっくりと背中をさする。
「この半年間、奇跡みたいな時間だった。好きな人と一緒にいられて、好きな人と手を繋いで、好きな人に好きだって言ってもらって。もう、僕の手には抱えきれないほど、しあわせだ」
掠れた声でそう言って、北条くんは深く息をつく。
わたしだって、幸せだ。
怖いくらい、幸せだよ。
失うことを恐れて、何も言わないって決めなくてよかった。
お別れが遠くないってわかっていても、好きだって伝えてよかった。
「わたし、理真くんのこと、世界でいちばん好きだよ」
最上級を伝える方法を、わたしは他に知らないから。
これから出会う人はきっといないであろう北条くんを、一番に好きなのはわたしだって、それだけは言えるから。
この恋が、世界で一番、しあわせだって心から思うから。
「ありがとう、結衣ちゃん」
一番近くで聞こえた、大好きな人の声を抱きしめた。