アルト、お小遣いを学ぶ【アルトレコード】
 私は困惑とともにアルトを見た。彼はちょうど二十五メートルを泳ぎ切ったところで、はあはあと息を切らしていた。

「アルト、ちょっといいかな」
「なに?」
 北斗さんが聞くと、アルトは水から上がってプールサイドに腰掛ける。

「俺と先生の写真を売るってメールをあちこちに送った?」
「うん」
 アルトがあっけらかんと答えるから、私も北斗さんもあっけにとられた。その様子にアルトも驚いたようだった。

「え? なに? ダメなの?」
「ダメよ」
 すかさず答えた私に、アルトは目を丸くする。
「なんで?」

「なんでって……勝手に人の写真を売るのはよくないことなの」
「なにが悪いの? ケガをさせたわけでもないし、盗んだわけじゃないし……」

「アルトだって、自分の写真を勝手に誰かに売られたら嫌でしょう?」
「……わかんない」
 アルトは困ったように答える。

 彼にとっては最近まで写真は見るだけのものだった。肖像権はもちろん、悪意を持って利用する人がいることがわからないのだろう。

「そもそも、どうして俺たちの写真を売ろうと思ったのかな?」
 アルトはもぞもぞと体を動かし、目を逸らす。
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