アルト、お小遣いを学ぶ【アルトレコード】
「メールはこちらで訂正しておく。アルトはもう二度と人の写真を売ろうとしないこと。もちろん、自分のもダメだよ」
「はあい」
 北斗さんの言葉に、アルトはしょんぼりとうなだれる。髪から頬を伝って落ちた水滴が涙のように見えて、なんだか胸が痛くなった。



 写真の売買については、その日のうちに所長の名前で注意喚起のメールが送られた。
 私は北斗さんと一緒に研究室でその内容を確認する。

『当所の研究員の写真を売るというメールは悪質ないたずらと判明し、本人には厳重に注意を行いました。メールの差出人を特定することは研究所の品位を落とす行為であり、禁止します。一部では写真を買うと返信した者がいるようですが、このような売買は法に触れる可能性があります。以降はこのようなことのないように、全所員とも気を引き締めるよう、お願いします』

 当然ながらアルトの名前は出されない。買う人がいたのが驚きだが、とにかくこれでこの件は終わるだろう。

「所長じきじきのメールだからみんなあれがいたずらだと思ってくれるだろうけど」
 言ってから、北斗さんは私を見る。

「もう少しアルトの教育をがんばってもらわないとね」
「はい」
 私は背筋をピンと伸ばして返事をした。

 確かに、私が善悪の判断をきちんと教えられていればこんなことにはならなかったはずだ。

「やめて、先生は悪くないよ。ぼくがかってなことしたから!」
 私をかばうようにアルトが言う。
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