アルト、お小遣いを学ぶ【アルトレコード】
「北斗さんは一緒じゃないのね」
 慌てたように彼女が話題を変えた。

「そうなんです。いつも忙しそうにしていて、食事をちゃんととっているのか心配になるときがあります」
「そうよねえ。食堂ではめったに見ないし、いつもデリバリーみたいね」

 言いながら、彼女と一緒にいただきますをして私たちは食べ始める。私は麻婆豆腐のチャーハンセットで彼女はパスタセットだった。

「北斗さんが食堂に来たら、それだけで食堂の利用率が上がるのにね」
「どうして?」
 アルトは不思議そうに尋ね、彼女は口の中のパスタをごくんと飲み込んでから答える。

「北斗さん目当てのお客さんが増えるからよ。見るだけで目の保養になるからね。写真があれば買いたいって言う人もいるし、彼の眼鏡ストラップと同じのが買いたいって言ってる人も、何人もいるの」
「すご……」
 私は食べるのも忘れて感心した。

「買う人がいるってことは、売れるの? 売るとお金が手に入るんだよね?」
 アルトがたずねる。
「そうそう。よくわかったね」
 彼女がほめてくれて、アルトはうれしそうな顔になった。

「需要と供給って言って……て、このあたりはまだ早いのかな」
「まだお小遣いの使い方の段階です」
「手間のかかる教育してるね」

 彼女はそう言うが、研究チームによって研究内容が違う上、守秘義務が当然なので、それ以上のツッコミはない。こういうゆったりした教育によるAIの教育課程を研究していると思われているかもしれない。すでにペットAIではなく別方向での利用を検討していることを伝えているので、そこも違和感はなかったのだろう。

 その後はたわいもない雑談をして、昼休みを終えた。
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