ひと夏の星に名前をつけるなら
「でもね、オリオンにはこんな話もあるの。月と狩猟の女神アルテミスと結婚すると言われてた。けれど、それをよく思わないアルテミスのお兄さんが嘘をついて2人を引き離すの。」

いてもたってもいられなくなり、思わず話す。
彼は黙って耳を傾けてくれている。

「結局、何も知らないアルテミスが引いた弓でオリオンは死んじゃうの。後でそれを知ったアルテミスが大神ゼウスに頼んでオリオンを星座にしてもらったんだって」

どちらにしろ、オリオンが死んでしまう運命なのは変わりない。

「でも、冬の夜になるとオリオンに会うために月がオリオン座を通っていくの。悲しいけどちょっと救いがあるように感じない?」

そう言ってちらりと彼を見てみる。
何を考えているのか、私には分からない。

「うん。ギリシャ神話ってそういうの多い。悲しい結末だけど、必ず星になる。忘れられないように、空で輝き続けるんだって」

穏やかな声で彼は言った。

私は少し黙って、夜空を見上げる。

——悲しいけど、星になる。
それって、なんだか美しい。
形がなくなっても、心の中に残り続けるような。

「……もしかしたら、私がデネブって言ったのも、そういうの、知ってたからかもしれない」

「無意識に?」

「うん。消えそうだけど、ちゃんと光ってる星になりたい。忘れられないように」

彼は目を細めて、私を見た。

「いいね、その言葉。
……ことちゃんは、ちゃんと“星になれる人”だよ」

その言葉が、胸の奥にそっと落ちた。
優しくて、少し切なくて。
私はまたひとつ、彼のことを知りたくなった。

じゃあ、アルは?あなたは“星になれる人”なの?
そんな疑問が頭の中を駆ける。

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