ひと夏の星に名前をつけるなら
「ねえ、ことちゃんには夢がある?」

「……分からない」

答えるのに戸惑ってしまった。
言葉が喉の奥で渋滞したように上手く紡げなかった。

「何がしたいのか分からない。そもそも自分のことさえも分かってるのか…」

夜の風が静かに吹き抜けた。

「…何を夢にすればいいんだろうね」

呟いたように彼が吐いた言葉は、はっきりと私の耳に届いた。

驚いた。彼もまた、迷っている若者の一人だった。

(焦らなくていいのかも…)

彼の穏やかな雰囲気を見ていると、そんな風に思う。

それに少しだけ胸の奥がふわっと軽くなったような気がした。
何かが解けていくような不思議な感覚。

私はもう一度空を見上げる。

星は今日も変わらずそこにいた────


「どっちが早く流れ星見つけるか勝負しよう」
私らしくない発言だが、後悔はなかった。

「おもしろいね。臨むところだ」

そう言った彼の声は私を包んでくれるような優しさだった。


胸にそっと手を当てる。

奥にひとつ、星が灯った気がした。
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