ひと夏の星に名前をつけるなら
出会いの声
夜になると、この村は静寂に包まれ、虫の声と風の音だけが残る。

私は縁側に座りながら、小さくため息をこぼした。

目の前に広がるのは、どこまでも暗い田んぼ。

上を見れば、吸い込まれそうなほど深い夜空が広がっている。

「アイス食べるかい?」

おばあちゃんが台所から顔をのぞかせた。
私は「うん」とだけ返事をする。

夏休みの間、家族でこの田舎に来るのは恒例行事だった。
小さい頃は虫取りや川遊びが楽しみで、朝から外に飛び出していたけれど、最近は何をしても心が動かない。

何かをしたいけれど、何をしたらいいか分からない。
将来のことを考えると、気持ちが重くなる。

普段の生活は、それなり。
でも“夢”なんて大それたものは持ち合わせていない。
ずっとモヤモヤしたまま、心のどこかが空っぽだった。

「早くおいで〜。アイス溶けちゃうわよ〜」

「あ、今行く」

私は立ち上がり、アイスを受け取って戻ってきた。
そしてまた縁側に座り込む。

空を見上げると、星がひとつ、またひとつ灯り始めていた。

そういえば、去年も一昨年も、私はこうしてひとりで空を見てた。
何かを考えていたような、何も考えていなかったような。

でも確かに、心が少しだけ落ち着いた気がして。

「夜空って、誰にも邪魔されないから好きかも」

誰にも聞こえない声でそう呟いて、私はアイスをかじった。

甘さが口に広がっても、胸の奥は、やっぱり冷たいままだった。

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