ひと夏の星に名前をつけるなら
彼は空を見上げていた。
昨日と同じ姿勢で、昨日と同じように、静かに。

「……また来たんだ」

私の声に、彼がゆっくりとこちらを振り返る。
そして、ふっと柔らかく笑った。

「来ると思ってた」

「どうして?」

「んー、なんとなく。君、星に呼ばれてる感じがしたから」

アルは時折変なことを言う。
でも、それが嫌ではなかった。

私も隣に並ぶ。草のしなる感触がいつもよりも大きく感じた。

「ことちゃんは、流れ星って見たことある?」

「あるよ。ここにいればいつだって」

「へぇ、ここで見れるんだ。じゃあ今夜も見られるといいね」

本心かどうか分からない口調で話す彼。

「アルは願い事、するタイプ?」

「……どうだろう。ひとつだけ叶うなら、言わずにとっておくかな」

「どうして?」

「口にしたら、すぐ消えそうだから」

彼はそう言って、空を見つめた。

その横顔は、まるで星の一部みたいに静かだ。

私からしたらアルの方が消えてしまいそう。

その儚さに、なぜかもどかしさを感じる。
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