私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「そっかぁ。素敵だね!関家君にピアノを教えて、なんだか私も誇らしく思えたよ。ピアノを弾いてくれてありがとう」

「いえ。俺こそ先生にお礼を言いたくて。俺はその子にピアノを弾かなかったら、きっと医者を目指さずに親に反発したままだったなって」

「お礼を言わなきゃいけないのは私より、将来を決めてくれた存在だよ。ピアノを聴いてくれたその子は特別だね。その出会いを大事にしなきゃ―――」

そこまで言って、ふと梶井さんを思い出した。
梶井さんも同じだったのだろうか。
今の関家君と同じで迷っていた時に出会った存在。
そんな時に出会った人は当然大事に決まってる。
それも大事な人生の分岐点で。

「そうなんです。だから、俺、頑張ろうと思って。でも、ピアノも続けるつもりです」

「うん……そうだね……」

「先生?」

足を止めた私に関家君が振り向いた。
私は嫉妬なんかしないで、ただ一緒にいるべきだったんじゃないかな。
梶井さんが私を必要だって言うまで、そばに寄り添うべきだった。
そんな気がした。
もう遅いけど―――

「あら。デート?」

赤いフェラーリが道路脇に止まった。
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