私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
離れてからそんなにたってない。
それなのに俺は望未の声が懐かしく感じた。

「また泣いてたのか」

『泣いてない』

嘘をつくなよ。
でも、泣いているのはきっと俺のせいだ。

「会いたい。今すぐ来いよ」

俺らしくない言葉もこいつには言える。

『そんなひどいスランプなの!?』

「そうだ。お前のせいだ」

『わ、私のせい?』

全部お前のせいだと言ってやりたい。
孤独に耐えれなくなったのも、スランプになったのも。
大事なコンサートの前だっていうのに練習しないでここにいるのもな。
けど、それを全て引き換えにしても俺は望未に会いたかったんだ。

「俺にはお前が必要だ」

『今すぐ行くから待ってて!』

お前は俺を愛してくれる。
どんな俺でも。
部屋に置いていった楽譜を手にした。
捨てられなかったピアノパートの楽譜。
ファリャの火祭りの躍りだ。
一緒に弾きたいと思っていた。
これを渡せる。
今なら。
俺は部屋のドアを開けた。
あいつがきたら、すぐにわかるように。
マンションの廊下を走る音が聞こえて、息を切らせて赤い顔をして俺を見た。

「梶井さんっ……」

「やっぱり泣くのかよ」

泣いたせいで目が赤い。
それは俺もか。
望未に手を伸ばし、抱き締めた。
しがみつくように俺に抱きついた。
もう俺から離れないんじゃないかってくらいの強さで。
痛いくらいの力強さが俺はもう孤独(ひとり)じゃないと教えていた―――
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