私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
「俺を荷物みたいに言うな」

がばっと起きて、自分が服を着てないことに気づいて望未は『ぎゃあっ!』とカエルがつぶれたような声を出した。
ばふっと枕を頭にのせてシーツをかぶる。
なにやってんだ。
こいつ。

「お前の裸はいやってほど見たから気にしなくていいぞ」

「私の体は飽きるような体なの?」

シーツからもぞもぞと抜け出し、顔だけ出してきた。
エスキモーかよ。

「お前にそのセリフは早い。もっとうまいキスができるようになってから言え」

「梶井さんのキスがうますぎるだけ」

「またしてやろうか」

ばふっとシーツのなかに顔を隠した。
自分で煽っておいて、隠れるなよ。
本当にこいつは痛い目をみてもわからないタイプだよな。
だから、俺と付き合えるんだろうが。

「望未。顔を出せ。俺はドイツに戻る」

シーツの隙間から顔を出した。

「うん」

泣くか、それとも引き留めるか?
今までの女のように『行かないで』と言うだろうか。
俺は望未をじっと見つめた。

「待ってるから」

行かないでじゃなく待っている―――それは懇願じゃない。
俺はそう言えばよかったのか?
母に。
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