私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】

June 第26話 出会い

梶井さんは私に甘い味を覚えさせて、忘れられないように自分の痕を刻みつけていった。
私が思っているより、梶井さんは独占欲が強い。
そして、寂しがりやだ。
そのくせ、強がってみせる。
私が泣くとドイツに戻れなくなるなんて言って、空港まで見送らせてはくれなかった。
だから、自分の部屋の窓から空を見上げていた。
夜空は雨のせいで曇って月も星も見えない。
だけど、電気の光で雨粒が光って落ちるのを窓を開けて眺めていた。
手の中には梶井(かじい)さんからもらったマンションの鍵。
誰も部屋には入れないっていってたのに―――だから、一緒にいたのも私を必要としてくれたことも夢じゃないって思えた。

望未(みみ)ちゃん、梶井さんと付き合っていたなら、教えてくれてもよかったのに」

菜湖ちゃんが私にシナモン入りのロイヤルミルクティーを渡してくれた。
窓からは六月の涼しい夜風が入ってきて、温かい飲み物がまだ嬉しい。
砂糖を入れ、スプーンでぐるりとかきまわして、ミルクティーを一口飲んだ。
ふわりと香るシナモンの香りはいつもより特別で、外国の匂いがしてほんのり甘くておいしかった。
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