私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
それも小学生か中学生みたいに扱われた気がしたけど、気のせい?
コンサートのチケットを見詰めた。
チェリストの梶井理滉だとようやく気が付いた。
菱水音大附属高校の大先輩で有名なチェリストだから知っている。

「オーケストラのチケットなんてすごいね」

菜湖ちゃんはチケットを手にすごく喜んでいた。
まだ私も菜湖ちゃんも明日もこの街に滞在する予定で午後からフリーの予定だった。
買い物をする予定だったから、コンサートを聴きに行くだけの時間はあった。

「望未ちゃんの音楽の勉強になるし、聴きに行こ」

「うん」

「よかったね、望未ちゃん」

私は返事ができなかった。
よくない。
菜湖ちゃん、よくないよ。
あの人は世界的に有名なチェリストで、雲の上のような存在。
私は今、恋をしてしまったのにこの恋は叶いそうにない。
前途多難な上に恋なんて呼ぶのもおこがましい。
そう思っていた。

―――奇跡が起きるまでは。

梶井さんの部屋の鍵を手にして、私は眠った。
これは私の戦利品でお守り。
六月の湿った空気すら、今の私には心地よく感じていた。
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