私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
コンクールでは当たり前みたいに本選にいつも残っていて、高校卒業と同時に海外の音楽院に留学してしまうような人達。
そして、深月さんは梶井さんと同じタイプのチェリストだと思う。
先輩と後輩ということもあって、二人は親しい間柄のはず。
切磋琢磨する素敵な関係を想像して連絡してみることにした。
きっと『久しぶりです!先輩!』なんて、爽やかな声が聞こえてくるんじゃないかな。
コール音を何回を鳴らした。
けれど、なかなか出てくれない。

「無理かな」

あと一回だけ。
そう思ってもう一度かけてみる。
何回目かのコール音の後、出てくれた。

『なに?』

う、うわぁ……不機嫌な声。
敵意丸出しとはこのことだ。
梶井さんはいったいどんな人間関係を築いているのだろう。
女の人との別れ話、マネージャーさんの冷たい態度―――そして、友好的な態度からはほど遠い後輩の声。

「えーと、すみません。私、梶井さんの落としたスマホを拾った者ですが……」

『捨てていいよ』

即決、即答だった。
捨てる!?
いやいやいや。
聞き間違いかな。
もう一度、話してみる。

「そんなわけには。仕事の電話もかかってきていましたし」
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