私のことが必要ないなんて言わせません!【菱水シリーズ③】
そこにはグレーのスーツ姿でメガネをかけ、髪を後ろに結んだ渡瀬さんが立っていた。
今日もブレないその安定感は健在で業務的な口調で言った。

「五分前に到着してしまい申し訳ありません。用意はできましたか?」

「はい。こちらこそ、すみません。わざわざ迎えにきていただいて」

「いいえ。私が迎えに来なかったら、リハをサボってでも梶井さんが迎えにきたと思いますよ」

「まさか。そんなことしませんよ」

笑いながら車に乗った。
けれど、渡瀬さんは笑わなかった。

「事実です」

「は、はあ」

パチンとシートベルトをとめた。

「あなたに渡しておいてくれって頼まれているので、今後のスケジュールを渡しておきます」

「ありがとうございます」

八月から先の決まった分のスケジュールを見た。
その瞬間―――心が震えた。

「これ……」

梶井さんは私が見るってわかっていて、わざとそれを書いたに違いない。

「一緒にいたいそうですよ。ああみえて寂しがり屋なところがありますからね」

黙ってスケジュールを見詰めていた私を心配してか、渡瀬さんが声をかけた。
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